育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

右背側結腸炎(Cohen2002)

馬の右背側結腸炎は実験的にフェニルブタゾンの投与で再現されるほか、臨床現場で一般的に使用されるフルニキシンやその他のNSAIDsの連用でも引き起こされることが知られています。

ヒトではNSAIDs関連腸炎が広く知られていて、NSAIDsがOTC薬として広く普及し日常的に服用されていること、よく使用されるリウマチの患者で発症リスクが高いことなどがわかっています。米国ではこの疾患に関連した死亡症例も多く報告されてきました。一般的にNSAIDsに関連した消化管の副作用はマイルドですが、慢性的な病態まで進行するためサイレントに蔓延していると考えられています。重要なのは早期に発見して適切な管理を行うこととされています。

 

馬におけるNSAIDs関連腸症はよくあると考えられるものの、診断は難しく、簡単には気づかれません。この疾患を診断するためには、その原因、詳細な臨床所見や経過から得られる素因、身体検査や診断試験の結果を正しく解釈する必要があります。

 

要約

馬の右背側結腸炎はNSAIDs誘発性の腸症であり、ヒトのNSAIDs関連腸症と同様に、その重要性は過小評価されています。早期発見により内科療法の予後が改善されます。たいてい、臨床症状や臨床病理学的検査所見に基づいて、他の鑑別疾患を除外することで推定診断します。内科療法は、食事療法、NSAIDs使用制限、生理的ストレス低減、特定の薬剤投与が4本柱です。外科的治療が必要になる症例もいますが、残念ながら外科治療の予後は不良です。早期発見と内科的管理指導への協力が、治療成功に重要です。

 

参考文献

Right dorsal colitis

N. D. Cohen

Equine Veterinary Education 2002 

Right dorsal colitis - Cohen - 2002 - Equine Veterinary Education - Wiley Online Library

 

 

原因

フェニルブタゾンが最もよく知られ、実験的にこの症状を再現することができるNSAIDsですが、フルニキシンやその他のNSAIDsでも起こりうることが知られています。

病態形成は不明ですが、ひとつはNSAIDsによるCOXの非選択的阻害作用です。COX-1の阻害により、アラキドン酸代謝のなかで腸管の恒常性維持に必要なプロスタグランジンE(PGE)が誘導されず、粘膜の虚血、低酸素、粘液抑制、修復不全が起きやすくなります。胃潰瘍でも同じような現象がみられます。、また、それ以外にも、PGは血管内皮への好中球の吸着と活性酸素放出を抑制する作用も担いますが、この経路も障害されてしまいます。

右背側結腸に限局的に病変がみられる理由についてはよくわかっていませんが、NSAIDs関連腸症では特異的な所見です。解剖学的には、経口投薬されたNSAIDsは食べた草と混じって右背側結腸に比較的長期間とどまること、生理学的には、右背側結腸は腸管におけるPGの唯一の分泌部位であることがわかっていますが、定かではありません。

 

症例の詳細な状態

どんな馬にもおきうるが、筆者の経験上は若い馬やポニーに多いと感じています。その理由は投与量が過剰であることで一部説明がつきますが、一方で推奨量を短期間投与しただけでも発症した例があります。パフォーマンスホースにも多く、それらは輸送ストレスや脱水なども関連している可能性があります。運動器の治療でNSAIDsを使うことはよくありますが、骨関節炎を持つ馬でNSAIDs関連腸症が起きやすいことも分かっています。

症例の治療履歴では特異的な主訴はなく、食欲不振、倦怠感、間欠的疝痛、下痢、体重減少などがあります。NSAIDsの投与歴は重要ですが、その有無だけでは判断できません。申告しない馬主や調教師も多くおり、その場合には過去の運動器疾患がないかがヒントになるかもしれません。

 

身体検査と臨床症状

倦怠感や食欲不振、軽度から重度までさまざまな程度の、時に間欠的な疝痛があります。経過次第では頻脈、頻呼吸、脱水がみられ、下痢~軟便、慢性例では体重減少もみられます。食欲不振からくる黄疸、腹側の浮腫、ごくまれに直腸検査における腸管肥厚があります。症状が似ているため胃内視鏡も推奨されますが、結腸炎と胃潰瘍は併発することもあります。

 

臨床病理学的検査

右背側結腸炎を疑う場合の臨床検査は 血液学、血液生化学、尿および腹水検査を行うべきです。検査所見として共通してみられるのは、貧血、低タンパク、低アルブミン、低カルシウム血症です。貧血は軽度なことが多く、腸管内出血または慢性炎症を原因とする貧血が疑われます。

低タンパクと低アルブミン血症は中程度から重度が多く、たいてい血清タンパク4.0~5.5mg/dL、血清アルブミン1.5-2.0mg/dLですが、これより低いこともあります。これらは腸管からの喪失と異化の促進のどちらも関わっています。さらに低タンパク血症による浸透圧低下からくる漏出性の循環血液量低下から、NSAIDsに関連したダメージは促進されます。カルシウムは通常血清中のアルブミンと結合しており、アルブミン減少に伴い低下します。

高窒素血症がみられるときは輸液療法を選択しますが、尿検査による比重測定は治療選択において有用です。右背側結腸炎において、たいていの場合は腎前性高窒素血症ですが、NSAIDsの腎毒性による場合もあり、これは腎乳頭壊死によるものです。慢性の場合輸液は不要ですが、急性の場合には輸液に反応します。右背側結腸炎はたいてい長期的に数日から数週で発症するため急性か慢性かの判断は難しいです。高窒素血症の馬において輸液への反応にはクレアチニンのモニタリングが重要です。大量に輸液を流して高窒素血症の馬に利尿させることも必要ですが、低タンパク血症のためさらなる結腸の浮腫を招くこともあります。

腹水は通常は正常です。白血球増加、タンパクおよびフィブリノゲン上昇がみられることもあります。腸穿孔や膿瘍が見られることもあり、感染性の腹膜炎所見は予後を悪化させます。

糞便中の血液は感度の低い検査だと思われ、直腸検査後24時間以内には擬陽性となることを覚えておく必要があります。糞便からサルモネラ属菌が培養されることがあり、科学的根拠はないものの、罹患馬におけるサルモネラ陽性馬は多かったとされています。

 

診断

症状や経過、臨床検査所見が非特異的なため、臨床診断は難しいです。鑑別診断に挙げられる疾患は多岐にわたり、胃およびその他の消化管潰瘍、砂による腸症、胆石症、胆管肝炎、その他の肝疾患、炎症性腸疾患、消化管リンパ肉腫、円虫の幼虫症、腸石症、小腸の筋層過形成などがあります。

確定診断を得るためには、腹腔鏡、開腹、剖検で確認する必要がありますが、生前には内科的に治療されるほうが好ましく、超音波検査による腸壁の評価は有用です。右側で11-15肋間で肺のすぐ腹側で観察できますが、これは右背側結腸のごく一部であり、多くの擬陽性を含むほか、他の疾患でもこの所見はみられます。シンチグラフィもありますが、症例は多くないため感度や特異度は調べられていません。

現在のところ筆者らの病院ではこの疾患は推定診断であり、さまざまな検査所見から他の疾患を除外診断することで、早期に推定診断して予後を改善しようと試みているようです。

 

治療

外科的な病変部分の切除やバイパスは行われてきたものの、その治療成績は芳しくありません。痛みの程度によっては開腹術が必要になる場合があり、開腹術を行うことによって目視で病変を確認することによる確定診断およびその他の疾患の除外が可能になります。

特徴的な外貌の所見は、右背側結腸に限局した浮腫および肥厚と粘膜のび慢性または多発性潰瘍です。たいていは漿膜面からの観察で十分ですが、粘膜面を見る必要があることもあり、病変の重症度によっては外科的治療が成功しないこともあります。筆者らの病院で開腹手術で重度の右背側結腸病変が見られた場合には内科的治療が選択されましたが、治療は成功しませんでした。

もし右背側結腸炎が強く疑われる場合は、コストや侵襲性を回避するため内科療法が推奨されます。内科療法の原則は、NSAIDsの投与回避、食事の変更、ストレス低減、特別な治療の4点です。

NSAIDsの使用回避は理にかなっていますが、できない時もあります。繰り返し疝痛を起こす場合や、慢性的な蹄葉炎などによりNSAIDsが必要な時があります。このような場合には代替となる鎮痛薬(α2作動薬やオピオイド)を使用するか、NSAIDsとミソプロストールなどのPG製剤を併用する、ケトプロフェンなど潰瘍を起こしにくい薬剤を使用するなど対策が必要です。繰り返しになりますが、NSAIDsは適正投与量でも短期間で右背側結腸炎を起こしうることは念頭におくべきです。

食事の変更は、結腸に生理学的、機械的負荷をかけないようにすることが目的です。繊維の少ない食事が推奨され、租飼料を混ぜなくても十分な量の食物繊維を含んだペレット飼料などに置き換え、粗飼料をできるだけ少なくします。ペレットの消化吸収は大部分が小腸で行われますが、結腸にも食物繊維は届くため腸細胞にも腸管からの栄養吸収が可能となります。米国で入手できる完全食ペレットの例としてHorse Chowがあります。これは28%乾燥重量ベースで食物繊維を含んでいて理想的です。盲腸や大結腸は繊維消化の拠点で、液体や電解質の交換も行うため、負荷の軽減が期待できます。可能であれば乾草や用量の多い繊維を食事から除外しますが、なかにはそれらがないとシェービングなどの敷料を食べてしまう馬もいます。それらには青草やアルファルファなどの質のよい乾草を与えます。食事療法の最適期間はわかっておらず、馬にもよりますが、ガイドラインからすると結腸の修復には3−6ヶ月かかるとされています。サイリウムの添加が有用な場合があり、難消化性の繊維を含むため緩下剤としての作用があります。しかし腸内フローラのなかにはこれを分解できる菌がいて、短鎖脂肪酸を作ることがあります。他の動物種ではサイリウムの給餌により短鎖脂肪酸濃度が上昇したとの報告があり、短鎖脂肪酸は結腸粘膜の修復を促進する可能性があり、Vitroの調査では人において短鎖脂肪酸の一つである酪酸は結腸上皮の炎症を抑制することが示されています。馬におけるサイリウムの結腸修復効果や適切な投与量はわかっていません。

直接的な利点の根拠はないものの、油の添加は有用かもしれません。コーン油は大量のリノレン酸を含んでいて、これがラットやポニー仔馬の胃におけるPGE2濃度を上昇されることが知られていますが、結腸でも同様の効果があるかはわかっていません。繊維の少ない飼料にすることで体重減少は一般的に見られますが、コーン油はカロリーの補充源として価値があるかもしれません。また、オメガ3脂肪酸を含んでおり、この炎症抑制効果によりNSAIDs毒性に関連した炎症病変の重症度を減じるかもしれません。残念ながらリノレン酸を含むいくつかのものは嗜好性が高くありません。

生理学的ストレスの低減や脱水を避けることは回復を促進するかもしれず、高強度の運動やパフォーマンスの中止、輸送の変更は有用かもしれません。新鮮で飲みやすい水をいつでも飲めるようにしておくことが重要です。長距離輸送で新たな環境に移った場合には水を飲むように塩を加えたりフレーバーを足すのもよいかもしれません。

右背側結腸炎の病態生理学は不明な点も残っており、同部を標的とした薬もありませんが、いくつかの治療は考慮してもよさそうです。合成PGE1製剤であるミソプロストールは理論上効果がありそうで、PGE2製剤はフェニルブタゾンによる消化管潰瘍予防効果が示されています。ミソプロストールの最適な投与量はわかっていませんが、通例では2-3mg/kgで6-12時間おきに投与されます。ヒトにおける経口投与のミソプロストールの副作用は吐き気や消化管の不快感がありますが、馬で疝痛は経験がありません。

スクラルファートも治療の助けとなるかもしれません。スクラルファートをはじめ、消化管粘膜保護として働くプロトンポンプインヒビターやヒスタミン受容体アゴニストなどは、結腸粘膜保護の効果は期待できませんが、2つの理由で効果が期待されます。ひとつは胃の腺部潰瘍を併発していることがあること、もうひとつの理由は骨盤領域に放射線治療をしているヒトでおきる消化管潰瘍に対して使用したところ消化管の不快感や下痢が減じたことです。スクラルファートの推奨投与量は22mg/kgで6-12時間おきで、薬価は高いですが副作用は少ないです。

メトロニダゾールはヒトのNSAIDs関連腸症の治療に使われてきました。理論上は、馬の右背側結腸炎にも効果があるはずです。NSAIDs誘発性消化管潰瘍では、好中球の血管内皮への接着が病態形成にかかわっている根拠があり、メトロニダゾールはラットなどの動物において消化管内皮への白血球接着を抑制することが示されています。筆者らは10-15mg/kgで、8-12時間おきに投与しています。メトロニダゾール投与中のモニタリングとして、副作用である食欲減退には注意が必要です。右背側結腸炎の馬はすでに食欲不振であることが多く、メトロニダゾールの影響と判断することが難しいかもしれません。潰瘍性大腸炎の治療によく用いられるスルファサラジンも人のNSAIDs関連腸症に投与されますが、馬での効果は不明です。

消化管保護材や吸着剤であるサリチル酸ビスマス、ミネラルオイル、活性炭の効果はわかっていません。

 

モニタリング

内科治療を始めたらモニタリングは継続する必要があり、内科治療に反応しない症例は開腹などの治療が考慮されます。内科的治療を始めても疝痛が継続しておきることがありますが、頻度や重症度が改善しない場合は継続できません。もしどうしても疼痛管理にNSAIDsが必要な時はミソプロストールと併用します。血清タンパクとアルブミンの数値モニタリングは重要です。ボディコンディションが低下していく場合はカロリーを補充しますが、基本はペレットやオイルを用いて給餌回数を増やします。腹部の浮腫がある場合には2-12週間かけて改善をモニタリングします。粗飼料を食べたくなる馬もいて、敷料を食べだすようなら適宜青草を与えます。

 

予後

右背側結腸炎の予後は、経過の長さと馬主が内科的治療に協力的かどうかにかかっています。確定よりも推定診断にはなりますが、早期に認識して治療を始めることが良好な予後につながります。NSAIDsの高用量投与は重度な腸炎と関連すると思われますが、用量の下限で投与していても起きうる病態です。結腸の狭窄や穿孔があると予後不良です。狭窄があっても飼料の変更で生き延びた馬もいる一方で、馬主が飼養管理を変えないと難しく、特に慢性的な疼痛にNSAIDsを使い続けることはしばしばあります。

 

制限と予防

獣医師がNSAIDs、特にフェニルブタゾンの使用時に期間や用量によらず、右背側結腸炎が起きる可能性があることを認識しておくことが重要です。推奨量投与でも発症する症例がいて、おそらく診断が難しいため見過ごされているはずで、注意深く見付けなければなりません。リスク因子と推定されているのは若いパフォーマンスホースやポニーで、疫学的調査によりリスク因子が明らかになれば回避できるかもしれません。高リスクと思われる馬ではストレス緩和、脱水回避、NSAIDsとミソプロストールの併用がよいかもしれません。