前肢の屈腱支持靱帯は浅屈腱支持靱帯および深屈腱支持靱帯があり、それぞれSuperior check ligamentとInferior check ligamentと呼ばれています。
深屈腱の支持靱帯はこれまでにも多く紹介してきましたが、競走馬ではそれよりも浅屈腱支持靭帯が損傷してしまう方が多いかもしれません。
浅屈腱支持靱帯は橈骨の尾内側(橈骨手根関節の7−14センチ近位)に付着しており、ちょうど腕節の掌側で浅屈腱の背内側に回り込んで合流します。支持靱帯は比較的太い靱帯組織で、手根管腱鞘に包まれています。手根管腱鞘炎は馬ではそこまで多くない跛行の原因の一つですが、腱鞘液の増量を起こす原因の一つに支持靭帯の損傷が挙げられます。診断には超音波検査が有用で、前腕内側で夜目のすぐ下あたりにプローブを当てると、比較的容易に支持靱帯を発見することができます。
浅屈腱支持靭帯の超音波検査による解剖学
Diagnosis and treatment of intrathecal tears of the accessory ligament of the superficial digital flexor
今回紹介する文献は、浅屈腱支持靭帯炎と診断した馬とその治療成績についてNewmarket Equine Hospitalから報告されたものです。
浅屈腱の支持靱帯の機能は浅屈腱を支えることで、下肢部が過剰に伸展するのを防ぐことだと考えられています。球節の過剰な屈曲(flexural deformity)ではこの靭帯の切断が行われることもあります。
これまでに他のグループからこの疾患について超音波検査で靭帯損傷を評価した報告がなされてきましたが、このNEHのグループからはこの損傷が腱鞘内の出血と腱鞘の腫れに関連することにも注目しました。
彼らの調査は2008年から2012年の5年間で手根管の超音波検査を行った83頭をレビューし、10頭で浅屈腱支持靭帯の損傷があり、7頭は腱鞘鏡手術を受けていました。
症例の内訳は7頭がサラブレッド平地競走馬で、年齢は3−14歳(平均6.9歳)で、全ての症例で、トレーニングしている期間に繰り返す前肢跛行と手根管の腫脹の履歴がありました。
来院時の手根管の腫脹は中程度が5頭、重度が4頭で、跛行グレードは平均3/10で、全て片側の病変でした。
エコー検査の所見は、腱鞘内の出血が4頭、支持靭帯の横断での不整像が全頭で、縦断での断裂や丸まった靭帯片が5頭で見られ、断裂により靭帯構造が本来ある場所から消失している例もあり、腱鞘内に断裂した靭帯から連続した不整な組織が8頭で見られました。
腱鞘鏡では出血の痕跡が見られることが多く、6頭は浅屈腱支持靭帯のみ、1頭は深屈腱の橈骨頭も損傷していました。
治療は全頭で鏡視下での断裂した靭帯の切除を行ったものの、病変と動脈や神経が非常に近接しており、血管損傷を1頭で起こしてしまいました。。
術後は2週間以内に抜糸し、4−12週間かけて常歩運動を徐々に進めて次の平地競走シーズンに備えられました。
追跡調査において、4頭いた競走馬のうち1頭は喉の問題で調教復帰が遅れたが調査時点で調教中、2頭は売却されて競走馬は引退、1頭は追跡不能でした。
過去の報告に照らしてみると、32頭の調査報告で支持靭帯単独の損傷は少なく、腱鞘が腫れていたのも半数でした。過去の調査では腱鞘鏡手術はメジャーな治療オプションではなく、腱鞘内の病変を直接評価できていないため単純な比較はできません。しかし、支持靭帯損傷にも違ったパターン(腱鞘と関連しているかどうか)があり、それによって最適な治療方法も変わってくる可能性があります。過去の調査では腱鞘内へのヒアルロン酸やステロイド投与、全身のNSAIDS投与と休養などが組み合わされていて、リハビリ期間が短いと再発しやすいことが報告されていました。
線屈腱支持靱帯の切断は屈曲異常や浅屈腱炎の症例で治療オプションの一つになりますが、その手術の際にも血管損傷が起きやすいので細心の注意を払うように言われています。今回の調査で支持靭帯の損傷による腱鞘内の出血は確認され、手術時に病変が血管走行に近接していることが明らかとなったことからも、靭帯損傷と出血による腱鞘の腫脹には直接的な関連がありそうです。
今回の調査では、競走馬におけるこの疾患に対する腱鞘鏡手術の予後はよくありませんでしたが、症例数を重ねて評価する必要があります。腱鞘が腫脹し、出血をともなっている場合には、浅屈腱支持靭帯の損傷を鑑別の一つに入れるべきかもしれません。