育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

両軸性種子骨骨折の馬の特徴と競走歴(Kristoffersenら 2010年)

内外の種子骨骨折を同時に骨折してしまう両軸性種子骨骨折は、球節掌側の支えがなくなってしまうことによる球節の沈下や脱臼につながる非常に重篤な損傷です。そのリスク因子となるのはどういった運動や競走なのでしょうか。英国の競馬場の馬場条件をもとに比較した文献を紹介します。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を行った理由
 英国の競走馬における致命的な両軸性種子骨骨折についての報告はこれまでにみられない。

目的
 英国における競走タイプ別の種子骨骨折の発生率および相対的リスクを示し、罹患馬の馬レベルの特徴と競走歴を明らかにすること。

方法
 前向き研究。1999年2月~2004年12月の期間で英国において致命的な骨折を発症した馬59頭から肢遠位部を採取した。剖検により骨折の解剖学的な位置とタイプを同定した。馬、競走歴、コースの詳細を調査した。種子骨骨折発症馬の特徴を記述した。英国の競走タイプ別に骨折の発症率と相対的リスクを算出した。

結果
 調査期間中に、種子骨骨折は31頭であった。すべての競走において種子骨骨折の発生率は10,000走あたり0.63件(31件/494,744走)であった。最も高い競走当たりの発生率はオールウェザーの平地競走で、10,000走あたり1.63件(12件/73,467走)であった。芝の平地競走と比較すると、相対的リスクは4.4であった。発生時の年齢は平均5.6歳で、出走回数の中央値は28回であった。

結論と潜在的関連性
 種子骨骨折と競走のコースには強い相関があった。オールウェザーの平地レースを走る馬は種子骨骨折のリスクが高い。この骨折はいくつか競走の経験がある馬が発症するように思われ、競走初年度の骨折発生はほとんどなかった。骨折の病因同定に焦点を当てたさらなる研究がなされるべきである。種子骨骨折の発生率は低いため、リスク因子を同定することを目的とするなら、長期の多頭数を対象とした調査が必要である。"