育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

両軸性種子骨骨折は骨疲労に関連するもの?(Kristoffersenら 2010年)

骨折の発症様式は様々です。一回の大きな負荷による損傷が原因の場合もあれば、じわじわと骨にヒビ、亀裂が入ってしまう場合もあります。後者はいわゆる疲労骨折というやつです。馬でもこのタイプの骨折がみられることがあり、おもに第三中手骨近位もしくは遠位掌側皮質骨や、脛骨などで認められ、少したわみを持った長骨で起きやすい印象を持っています。

骨疲労(bone fatigue)による骨折、つまり微小な骨へのダメージが積み重なって骨折してしまった、という所見が種子骨骨折にみられるのか、という研究を紹介します。

 

文献のハイライト

骨折した種子骨と骨折のなかった種子骨の間に、特徴的な微小骨折の所見に差はありませんでした。したがって、微小骨折から大きな骨折に至るという仮説は証明されませんでした。損傷の蓄積よりも、一度に大きな負荷がかかることで骨折に至っている(急性単純骨折している)可能性が示唆されました。

   

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

"目的
 微小骨折や骨細管における変化が、致命的な両軸性種子骨骨折と関連しているかどうか明らかにすること。

方法
 10頭の種子骨骨折馬と、運動器疾患のない馬10頭から種子骨を採取し、bulk basic fuchsin法を用いて調査した。骨は組織形態学的調査および微細骨折の解析をおこなった。症例とコントロールは2検体t検定、対応のあるt検定およびマンホイットニーのU検定を用いて比較した。

結果
 症例とコントロールのあいだで、微小骨折の密度や骨細管領域に有意な差はなかった。また、症例馬の骨折した種子骨と骨折していない種子骨を比較しても差はなった。

臨床的関連性
 調査に用いた種子骨では微小骨折の密度は低かった。微小骨折の密度に群間の差はなく、このことから、英国の競走馬において微小骨折が種子骨の病的な変化を予見する可能性は低いことが示唆された。群間で骨表面領域には有意な差が見られなかった。症例馬の種子骨では骨のモデリング、適応、骨密度の上昇が関連していると想定される。したがって、英国の競走馬において、種子骨の骨細管における微小骨折は種子骨骨折との関連がないようだ。種子骨骨折は急性の単純骨折を表しているようだ。しかしその病態はいまだに解明されておらず、さらなる調査が必要である。"