育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

第三中手または中足骨顆骨折の発生分布(Jacklinら 2012年)

第三中手または中足骨の顆骨折は、球節に関連する重度な骨折のひとつで、競走馬で多く見られます。外顆の骨折は不完全または遠位1/3の外側皮質骨へと抜ける完全骨折が多く、内顆の骨折は近位方向へらせん状に伸びる骨折線を伴うという特徴があります。

ではこれらの発生頻度はどうなっているのでしょうか。このことについて骨折発症馬のデータをまとめた文献を紹介します。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を実施した理由
 調教・競走しているサラブレッド競走馬において、中手または中足骨の顆骨折は最もよくみられる長骨骨折であるが、その形態や発生頻度についての情報は限られている。さらに、英国および米国の症例報告を用いたグループ解析から、群間での解析および国際的なデータが出せる。

方法
 ニューマーケット馬病院にて過去10年間に発生した中手または中足骨の顆骨折症例について回顧的に調査した。また本研究と過去の英国における症例研究および米国における症例研究とも比較した。

結果
 167頭の競走馬で、174の骨折が認められた。前肢104、後肢70、外顆の骨折が79.9%(139:前肢86、後肢外顆53)が多くを占めたのに対し、内顆は20.1%(35:前肢内顆18、後肢内顆17)であった。本研究は、17年前に行った同様の症例集よりも内顆骨折症例の割合が少なかった。骨折線は軸外側から始まる短いもので、外顆骨折の多くは溝より外側から骨折が発生していた。2歳馬の外顆骨折にはある程度明らかな季節性も認められたが、それより高齢馬では認められず、また内顆の骨折にもそのような偏りはなかった。

結論と潜在的関連性
 骨折は通常、疲労が局所に蓄積し、適応できないために矢状溝から発生するという画一的な病因が考えられていたが、本研究において、かなりの割合(約50%)はこれでは説明がつかなかった。競走馬における顆骨折は病因が異なるものがある可能性があり、これを解明するにはさらなる研究が必要である。内顆骨折の数が変化したのは、人工的なコースが導入されたことを反映しているかもしれない。また英国においては年中競馬できるオールウェザー馬場の導入による、競走馬の年齢の変化を反映しているかもしれない。”