育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

ケンタッキー中央部における135頭の第三中手骨および中足骨の顆骨折のタイプと部位(Zekasら1999)

第三中手骨および中足骨の顆骨折は、競走馬の球節において一般的に見られる骨折で、サラブレッドやスタンダードブレッドで報告されているものがほとんどです。この骨折は急性の発症メカニズムと考えられてきましたが、近年の調査からストレス性の変化が掌側に起きることと関連しているとも言われています。

骨折の発生部位と形状についてまとめて比較し、治療成績についても比較できるように分類した調査報告があります。

 

ケンタッキーの二次診療施設における大規模な調査では、9年間に135頭が球節の顆骨折で来院し、そのうち多くは前肢で外側顆に発生していました。顆骨折では掌側関節面の骨片が形成されY字型の骨折線となることがあり、骨折形状を十分に把握するためにはルーティンな検査に追加して、屈曲DP像やスカイビュー像により骨片の有無を評価することでより詳細な予後の評価が可能になることが示唆されています。

 

1986−1994年の期間でケンタッキーのRood and Riddle馬病院に来院した135頭の症例を回顧的に調査しました。

X線検査画像を調査し、骨折の起始部を中手骨および中足骨の矢状稜、矢状稜の横およびそれよりも軸外側面の3つに分類しました。また、屈曲したDP像では掌側または底側に骨片があり、骨折線がY字に見えるかどうか判定しました。骨折線の近位側が皮質骨に抜けていれば完全骨折、さらに1 mmを超えて骨折部が移動していれば変位ありと判定しました。

骨折の81%は前肢に発症し、外側顆の骨折が85%を占めていました。63%は完全骨折で、そのうち50%は変位がみられました。骨折の起始部は矢状稜近くの軸側が40%、顆中央部が59%で、軸側から始まる骨折線の方が中央部からの骨折よりも有意に長く、また内側顆の骨折の方が外側顆よりも長い傾向にありました。57%は関節面の骨片がみられませんでしたが、15%は明らかな骨片が、12%は骨片を疑う像がみられました。関節面の骨片が明らかであった骨折のほとんどは顆中央部に起始する完全骨折でした。骨片の大きさは関節面の13−78%(中央値25%)でした。

過去の症例報告との比較では、本調査と同様に、米国では外側顆の骨折が多数を占めていたのに対し、英国での報告は外側顆が多いとの報告はあるものの、そこまでの偏りは報告されていませんでした。これは調教馬場(ダートと芝)や調教場の形状(オーバルトラックと直線)の違いによるものかもしれません。

これまでの調査で、内側顆の骨折は後肢でより長く螺旋状に伸びていくことが多いとされていました。しかし本調査では内側顆の骨折は前肢に多く、また螺旋状に伸びた骨折はすべて前肢であり、そのうち2頭は外側顆の骨折でした。つまり、螺旋状に長く伸びていく骨折はどの部位でも起きうることが示唆され、どんな顆骨折でも徹底したX線検査画像解析により評価する必要があると考えられます。

骨折線の長さや完全骨折と不完全骨折の割合は過去の報告と一致していました。

この調査では、右前肢では完全骨折が多く、左前肢では不完全骨折が多くみられました。これは米国の多くが左回りのトラックで調教とレースが行われ、負荷のかかり方が左右で偏っていることと関連しているのかもしれないと考察されています。

近年の調査で顆骨折はストレス性の変化と関連しているとされ、掌側のストレス反応がみられるのは本調査における顆中央部に当たります。本調査では59%がこの部位からの骨折でしたが、一方で40%は矢状稜近くの軸側から発生していたのは興味深い点でした。

関節面の骨片については、やはり米国での調教馬には多いらしく、調教方法などと関係があるのかもしれません。骨片が見られたのはほとんどが顆中央部の完全骨折で、屈曲または125度スカイビュー像によって多くが検出可能でした。不完全骨折では関節面の骨片はX線で検出できないのかもしれません。骨片があると治癒が遅くなるため、予後判定には重要な因子となります。したがって、顆骨折と診断したら、追加で屈曲DPと125度スカイビュー像は撮影するべきです。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

135頭に発生した145の顆骨折の特徴を詳細に記述するための回顧的調査である。医療記録とX線検査を調査した。59%はオスで、ほとんどはサラブレッドの症例であった。骨折の内訳は、不完全で変位していない骨折が37%、完全骨折で変位していない骨折が30%、完全骨折で変位している骨折が32%であった。右前の骨折は完全で変位している骨折が多かったが、左前は不完全で変位していない骨折が多かった。前肢の骨折が81%、外顆の骨折が85%と多かった。過去の調査と異なり、右前肢の方が左前肢より少し多かった。骨折の起点は顆の中央部が59%と多かった。骨折の長さの平均は75±3.8mmであった。軸側で、内側顆に発生した骨折は骨折線が長い傾向にあった。15%は関節面に骨片(粉砕)が確認できた。関節面の粉砕がある骨折の95%は完全骨折であった。顆の中央部から始まる骨折は、23%で関節面の粉砕があった。らせん状の骨折線は8頭で、全て前肢に認められた。併発していた病変は、第一指骨の剥離、種子骨骨折、種子骨炎、第一指骨骨折、管骨骨膜炎および靭帯損傷であった。本調査の症例群で認められた骨折の詳細な記述から、顆骨折の定義をより詳細にでき、過去の調査と比較することができ、予後を決定するための新しいデータとすることができる。