育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

第三中手骨の軟骨下骨嚢胞病変に対する外科的治療、15頭の成績1986ー1994年(Hoganら1997)

球節の軟骨下骨嚢胞は第一指/趾骨または第三中手/中足骨に関連してみられることが知られています。若い馬に多くみつかり、軽度から中程度の跛行を示すものの、関節の腫脹を伴う症例が多くないことが特徴です。診断麻酔後にX線検査を行うことで発見されることが多いです。

古い論文では、関節内投与や運動制限といった保存療法が選択され、あまり良い成績が得られていませんでした。1990年代になると、関節鏡や関節切開を行い、骨嚢胞を掻爬する処置が選択されるようになりました。本書はその論文の一つです。

 

近年では軟骨下骨嚢胞に対して、それを貫くようにスクリューを入れる治療法が多く試みられていますが、掻爬術も依然として有効な治療方法のひとつです。

 

管骨遠位関節面の軟骨下骨嚢胞に対して掻爬術を行った15頭を調査した。

跛行グレードは2-3/5で、診断麻酔は関節内を3頭、Low 4 pointを6頭で行い跛行が改善した。球節の関節液増量は8頭(53%)でみられなかった。

15頭中サラブレッドは4頭、クォーターホースが5頭含まれた。年齢平均は18カ月で、10頭が2歳未満であった。

シストは13頭で内側顆にみられた。すべてDP像で確認でき、なかには側方像、屈曲の側方像で確認できる症例もあった。シストの直径は平均18mmで、ほとんどが関節面との交通を認めた。

手術は関節鏡12頭、関節切開3頭でシストの掻爬および骨穿刺を行った。術後は30-60日の馬房内休養、続いて小さなパドック放牧を60-90日行い、術後120日のX線検査が良好であれば運動を再開した。

12頭が跛行なく運動できていた。サラブレッドの2頭とクォーターホースの3頭は競走馬になった。跛行が残った2頭のうち1頭は高齢で術前にDJD所見があった。もう1頭は術後にシストが増大した。術後の追跡調査でX線画像が得られた9頭のうち8頭でシスト内の骨成長があった。

シストの外科的な掻爬により、軟骨下骨にある知覚神経への圧迫が解除できるとの考察がなされており、術後にシストが骨で置換されていき周囲の骨硬化が消失していくことが確認されている。

この調査における手術成績は良好で、運動復帰できた12頭中8頭は競走や競技といった強度の高い運動をこなすことが可能であった。一方で症例にも含まれていた通り、すでにDJDや関節の可動域が減少している馬の術後の予後には注意が必要である。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

要約

 第三中手骨の顆における軟骨下骨嚢胞を外科的に治療した15頭についての報告。来院時の年齢中央値は18ヶ月(範囲は10ヶ月から12歳)で、15頭中10頭は2歳未満であった。軟骨下骨嚢胞は全ての症例で前肢に見られ、2頭は両前肢に見られた。15頭中13頭は内側顆に病変が見られ、1頭は外側顆、1頭は矢状稜に見られた。両前肢に骨嚢胞が見られたうちの1頭は右大腿骨内側顆にも所見があった。14頭は球節に関連した中程度の跛行歴があった。残りの1頭は偶発的に見つかった。跛行の持続期間は4週間から8ヶ月で、急性発症または運動に関連して間欠的に発症した。球節の屈曲試験では全ての症例で跛行は悪化した。8頭(53%)で関節液増量は見られなかった。12頭で関節鏡、3頭で関節切開により骨嚢胞を掻爬した。7頭では同時に骨嚢胞に対して骨穿刺した。2頭で骨嚢胞の外科的な掻爬を行った1年後に第一指骨の近位背側の骨軟骨片を摘出した。外科的手術後、12頭(80%)は意図した用途に跛行なく使えていた。2頭は歩様異常が続き、1頭は追跡情報が得られなかった。合計の追跡期間は1−6年であった。9頭で追跡のX線検査が可能であった。このうち5頭で関節包付着部の背側に付着部骨増生と関節周囲の骨棘が軽度形成されていた。8頭で嚢胞内に骨は形成されておらず、1頭で嚢胞は拡大していた。本調査で得られた情報によると、中手骨遠位の軟骨下骨嚢胞の外科的治療は運動について良好な成績が得られると思われた。