育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

蹄骨の軟骨下骨嚢胞の関節鏡下掻爬術11頭1994ー2000年(Storyら2004)

蹄骨の軟骨下骨嚢胞は跛行の原因となることがあり、保存療法でも比較的良好な予後が得られることは前回の記事で紹介しました。

 

equine-reports.work

 

しかしながら、保存療法で跛行が消えない場合には、関節鏡下での搔爬術が考慮されます。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

保存療法は様々な投薬が用いられ、全身または関節内への種々の薬剤投与がなされたが、奏功せず跛行が消失しなかった症例を対象とした。サラブレッド9頭を含み、年齢は1歳6頭、2歳4頭、3歳1頭で、患肢は左前2頭、右前4頭、左後2頭、右後3頭であった。

跛行はG2−4/5で、全ての馬がブレーキングや調教の初期の段階で跛行を発症し、初めは保存療法が選択されていた。

X線画像では、すべてのシストが撮り下ろし像にて関節面矢状中央部に、側方像にて関節面中央部に位置していた。伸筋突起先端からの距離の平均は13.6 mmで、大きさは7×5 mm~18×16 mmで、中央値11×8 mmであった。

蹄冠背側から1cm近位を切開して関節鏡と機械ポートを作成し、搔爬可能な範囲にある軟骨下骨嚢胞を搔爬することができた。

術後は30日間の馬房内休養と2週間の引き運動を行ったのち、跛行がなければ60日間パドックで放牧してから運動を開始した。

11頭中10頭は意図した運動に復帰し、サラブレッド9頭中7頭は競走し、1頭は総合馬術競技へ、1頭は経過不明であった。

競走した馬について、手術から競走までの平均日数は423日であった。出走までの期間が長かったのは、跛行が消失するまでのリハビリ期間が長く、また調教初期で跛行していた馬が多く、初期段階のトレーニングからやり直すのに時間を要したのではないかと考察されている。

出走した馬の獲得賞金の平均額は、その母系兄弟よりも高かったが、頭数が少ないため統計学的検定力が足りず、有意な差とは言えなかった。

運動復帰できなかった馬については術後の経過が不明であるため、何が原因であったかわからなかった。