育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

第三中手骨矢状稜遠位のOCD診断と治療(Wrightら2014)

球節の、特に第三中手骨矢状稜遠位のOCDは、跛行の原因となることがあります。

球節内のOCDは多く報告されていて、第三中手または中足骨では矢状稜またはそれに隣接する顆の部分に限られて、欠損しているように見えます。この病変は前肢よりも後肢の方がよく見られるとされています。しかし文献では第三中手骨の病変について記述したものはありません。

若い馬で前肢の球節を原因とする跛行を呈した馬について、X線検査で第三中手骨の矢状稜OCDと診断した症例を集めて、検査所見を回顧的に調査しました。

この調査では、OCDは全ての症例で屈曲した状態での内外像および背掌側像で23関節中21関節において所見が得られました。背掌側像でみられる所見は、卵形の透過像が13、辺縁の不整な透過像が5、線状陰影が2、骨片が1関節でした。屈曲内外像でみられる所見は、矢状稜の透過像が9、歪な凹みが6、線状の透過像と透過像の違いが8関節でした。骨関節炎所見が同時にみられることはあまりありませんでした。

関節鏡で観察すると、これらの病変は骨軟骨がフラップ状に付着していて、プローブで触ると容易に動くもので、デブリードして洗浄します。

術後は徐々に運動強度を増して、調教および競走に復帰することができると報告されていて、競走馬では12頭中11頭が競走復帰し、できなかった1頭はすでに骨関節炎所見がみられた馬でした。

より矢状稜の背側や近位に形成されるOCDとは違い、関節面に近い矢状稜遠位のOCDは跛行の原因になることがありますが、関節鏡での摘出または掻爬術が可能で、術後の運動復帰の予後は良好であることが示唆されました。通常の撮影方法だけでなく、特殊な撮影方法(屈曲位での内外像)を追加することで漏れなく診断できる可能性があると述べられています。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

研究を行った理由

 第三中手骨矢状稜遠位のOCDはこれまでに文献には記述されていない。

 

目的

 第三中手骨矢状稜遠位OCDの臨床症状、X線検査および関節鏡での所見を記述すること、症例の成績を報告すること。

 

研究デザイン

 回顧的症例集

 

方法

 2006年2月から2013年2月の期間で、1つの二次診療施設で受け入れた第三中手骨矢状稜のOCD症例について、医療記録と画像を回顧した。追跡調査は聞き取りや競走パフォーマスの調査によって行った。

 

結果

 第三中手骨矢状稜遠位のOCDは、16頭の跛行している馬で見つかり、9頭は片側、7頭は両側であった。病変は屈曲内外像で一貫して検出され、21関節では背掌側像でも検出された。これらは球節を最大屈曲させて球節の背側コンパートメントからアクセスできた。この方法で骨片の摘出と病変部のデブリードができた。12か月以上の追跡調査ができた14頭のうち13頭は運動できており、競走馬は12頭中11頭が競走復帰した。

 

結論

 より近位の病変とは異なり、矢状稜のOCDは第三中手骨にみられやすいようだ。病変は、背掌側または屈曲内外像でのみ検出され、関節鏡で処置することができた。獣医師はOCDが第三中手骨矢状稜遠位におきる可能性があり、それを同定するために必要なX線撮影の方向があることを知っておくべきである。病変にアクセスするためには、改変した関節鏡アプローチが必要である。