育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

プアパフォーマンスの原因としての成馬の肋骨骨折;73頭の診断、治療および成績(Hallら2023)

馬の肋骨骨折は、仔馬において母馬から蹴られたり、牧柵などに激突したり、転落したりして外傷性に起こることが一般的です。

一方で、成馬では主に頭側の肋骨に疲労骨折が発生することが知られていて、重度な症状の場合は前肢跛行を呈しますが、通常はプアパフォーマンスや騎乗を嫌がるなどの特異的でない症状を呈すると言われています。

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一般的な跛行の原因とはならない疾患で、核シンチグラフィが使えない日本の臨床現場で診断することは難しいと思われます。

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しかし、15年間の回顧的調査では、超音波検査を用いて骨折部位を探査することで、核シンチグラフィと同等の検出力があることが示唆されました。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

背景

 成馬の肋骨骨折はほとんど記録がない。

 

目的

 肋骨骨折の臨床症状、診断、治療および成績を記述すること。

 

研究デザイン

 回顧的症例集

 

方法

 15年間で3つの二次診療施設で肋骨骨折と診断した全ての成馬の記録と画像を回顧的に調査した。

 

結果

 73頭が基準を満たした。主訴は騎乗を嫌がるまたはプアパフォーマンス(41頭)、跛行(21頭)、外傷(7頭)で、4頭で記録がなかった。臨床的な評価と触診で受傷部位が特定できた18/47は記録された。核シンチグラフィが行われた59頭では全ての骨折が同定された。X線検査では24頭中10頭が同定できた。超音波検査では、59頭中58頭(98%;95% CI 92-100)で同定できた。6頭は症状が長引き骨折が治癒しなかったため手術を受けた。他は全て保存療法であった。55頭は1年以上の長期追跡調査が可能で、28頭(51%; 95% CI 38-64)がもとの運動レベルに復帰した。12頭は肋骨骨折とは関係のない原因で跛行してもとの運動に戻れなかった。7頭は安楽死となったが、そのうち3頭は肋骨骨折が原因であった。8頭は他の原因でもとの運動に復帰しなかった。

 

主な限界

 回顧的症例集のため、データが不完全であった。

 

結論

 一般的なものではないが、馬のパフォーマンス減退や騎乗を嫌がる時には肋骨骨折を考慮すべきである。シンチグラフィと超音波検査は骨折部位を特定するのに有用である。馬の肋骨骨折の予後は注意が必要で、ほとんどの症例が保存的に管理することができる。

 

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