育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の脛骨疲労骨折に対するシンチグラフィグレード分類の適用42症例(Ramzanら2003)

疲労骨折

ヒト医療では、スポーツ選手や部活をしている学生におきやすいとされている脛骨疲労骨折ですが、馬でも発生することがあることはこれまでに触れてきたとおりです。

stress fracture

脛骨疲労骨折の好発部位 日本整形外科学会より

「疲労骨折」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる

 

馬の脛骨疲労骨折

脛骨疲労骨折は、X線検査では仮骨の形成や骨硬化が認められること、触診では脛骨遠位尾側面の触診痛や骨増生が触知されることで診断されます。これらでは異常が検出できない場合も多く、より早期の病変を診断可能なモダリティがシンチグラフィ検査です。シンチグラフィ検査では、放射性医薬品の取り込み増加が疲労骨折の発生部位に局所的にみられることが鍵となります。

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サラブレッド競走馬においては、未出走の若い馬に多いことが報告されています。疲労骨折は、パフォーマンス減退や跛行の原因となるほか、治癒しないまま運動を継続することにより完全骨折に至る可能性があることが報告されています。

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この画像を定量的に評価する試みがなされていますが、定量しグレード分類したものと臨床症状やその後のパフォーマンスとは関連が乏しいことが明らかになっており、予後評価の難しさがあります。

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調査で分かったこと

42頭の脛骨疲労骨折におけるシンチグラフィのグレード分類と臨床症状やX線所見との関連を検討したところ、やはりシンチグラフィのグレード分類と症状との有意な関連は認められませんでした。ただし、X線検査単独では病変の評価が難しく、今後どちらも併せて、リハビリ計画を立てるために前向きな調査を行うべきであると結ばれています。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov


研究を実施した理由

 サラブレッド競走馬において、脛骨疲労骨折は重要な跛行の原因の一つである。この損傷は、臨床症状、X線所見およびシンチグラフィ検査所見は様々である一方で、病変の重症度を定量的に評価されたことはほとんどない。対照的に、人のアスリートにおける脛骨疲労骨折のシンチグラフィ検査によるグレード分類は広く報告されていて、適切な管理指針を選択する助けとなっている。

 

目的

 脛骨疲労骨折について、シンチグラフィ検査のグレード分類、臨床的な重症度、X線所見との関連を明らかにすること。

 

方法

 本調査は、脛骨シンチグラフィ検査で異常な活性を認めた42頭のサラブレッドについて医療記録を回顧的に解析した。

 

結果

 病変の部位とシンチグラフィのグレードには関連があった。シンチグラフィのスコアと評価者には良好な相関があった。シンチグラフィのグレード分類とX線検査所見分類および跛行の程度との間に有意な相関はなかった。

 

結論

 本研究の結果から、X線検査所見は臨床的重症度や病変の進行度合いの尺度として信頼できないことが確認された。本調査におけるシンチグラフィのグレード分類システムは、馬の脛骨における疲労骨折の重症度を定義するのには有用ではなかった。

 

潜在的関連性

 今回はこのような結果になったが、病変や臨床的尺度に基づいた脛骨の損傷を管理していくことを目的に、前向きな調査を行う必要があることは自明である。