育成馬臨床医のメモ帳

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第三中手骨遠位掌側の疲労骨折:診断は難しいが予後は良い(Shanら2022)

球節の少し上、第三中手骨の遠位掌側には横方向の疲労骨折が発生することがあります。この骨折は程度が様々な跛行を呈し、球節の捻挫のような軟部組織の腫脹を伴うことが多いですが、他の疲労骨折と同様に初診時のX線検査では明瞭な病変が検出できないことがあります。

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若い馬での発生が比較的多く、保存療法(休養と制限したリハビリプログラム)を経て多くの馬が競走復帰できたと報告されています。

 

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調査でわかったこと

香港ジョッキークラブの管轄下におけるサラブレッド競走馬の第三中手骨遠位掌側の疲労骨折は、9年間の回顧的調査で23頭がみつかりました。

半分以上の症例は休養明けで出走または調教復帰したばかりのタイミングで発生していました。87%の症例で跛行が記録されており、このうち39%は重度の跛行でした。管遠位での軟部組織腫脹および触診痛は65%の症例で認められましたが、初診時に診断がついた症例は少なく、61%が診断されませんでした。その後のX線検査では、特徴的な所見である「びまん性または局所的な骨吸収」(70%)、「外骨膜表面の輪郭の途切れ」(67%)、「副管骨終端の外側への変位」(67%)が共通して確認されました。

ほとんどの症例(18/23:78%)は調教復帰が可能で、発症から83-246日後に競走復帰しました。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

背景

 第三中手骨遠位掌側の皮質骨における横方向の疲労骨折はほとんど記録されていない。

 

目的

 この損傷の典型的なシグナルメントを記録し、共通する臨床所見、X線所見および予後について記録すること。

 

研究デザイン

 病院における回顧的症例集と競走成績の追跡調査

 

方法

 香港ジョッキークラブで2011-2019年の期間に調教していた競走馬のなかで、この骨折と診断したすべての症例を同定した。臨床記録を回顧し、各症例の臨床症状を記録した。X線検査所見のリストから所見を記録した。記述的統計を用いて、年齢、調教プロフィール、臨床所見、X線所見および騎乗再開までの期間を調査した。

 

結果

 23頭を同定した。大部分(57%)は休養後に出走したばかりもしくは調教に復帰したばかりであった。8頭(35%)は損傷した時点でまだギャロップをそこまで行っていなかった。20頭/23頭(87%)は跛行しており、9頭(39%)は重度の跛行であった。15頭(65%)で、局所に軟部組織の腫脹を認めた。第三中手骨遠位部の触診痛は15頭(65%)でみられ、球節の屈曲痛は12頭(53%)でみられた。初期の症例では、びまん性または局所的な骨吸収(70%)、外骨膜表面の輪郭の途切れ(67%)、副管骨終端の外側への変位(67%)が共通のX線所見であった。14頭(61%)の症例は初診では診断されなかった。ほとんどの症例(18頭)は調教を再開でき、83-246日後に競走復帰した。

 

主な限界

 臨床的な記録は症例によって一致しなかった。X線検査を行ったタイミングが異なった。

 

結論

 調教し始めの馬は第三中手骨遠位掌側疲労骨折のリスクがある。臨床症状は混乱しやすく、X線所見はわずかなものである。長期的な展望は良好である。

 

 

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