育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

3頭の競走馬におけるP1骨折前駆病変を疑う臨床および画像所見(Ramzanら2010)

調査でわかったこと

2010年にニューマーケットのRossdaleのグループから発表された症例報告。3頭の現役平地サラブレッド競走馬が速い調教後に跛行した。跛行グレードは1-2/10と軽度で、全ての症例で球節の屈曲痛や関節の腫脹はなく、P1近位背側の軽度な触診痛のみみられた。X線検査では明らかな病変はなく、シンチグラフィ検査ではP1近位背側に局所的な取り込み増加がみられた。MRIでは同部位に特徴的な骨髄浮腫(Bone marrow oedema)パターンの所見がみられた。

その後の経過観察では1頭でP1に短い矢状骨折が、1頭でP1背側に骨増生がみられた。

P1の矢状骨折は、以前は単純な1回の大きな負荷により発生すると考えられていたが、特徴的な骨髄浮腫パターンがP1において報告されたのは初めてのことであった。

シンチグラフィ検査とMRIの特徴的な所見は、繰り返し負荷による骨折発症の根拠となるものである。臨床症状を認識しておくこと、MRIとシンチグラフィ検査を行うことで、P1の骨折を早期に発見することや明らかな骨折へと進行する前に検出することができるかもしれない。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

要約

競技馬においてP1矢状骨折は重要な運動器損傷のひとつである。この病態は一様な性質であると広く考えられているが、P1骨折のなかには疲労性の病因があるという証拠が発見されてきている。すべての馬は休養後に完全なパフォーマンスに復帰した。サラブレット競走馬においてP1骨折のなかには疲労性の傷害を経て発生する可能性があると筆者らは考えている。明らかな骨折にいたる前に介入できる症例がある可能性が示唆される。