背側皮質骨の疲労骨折
馬の第三中手骨は、管骨と呼ばれる骨です。
第三中手骨背側(正面)に骨と同じような硬い腫脹ができると、ソエや管骨骨膜炎と呼ばれます。骨に微細な障害が起き、修復する過程で骨増生が起きることで、硬い腫れが触れるようになります。
第三中手骨背側には運動により骨が圧迫され、たわむような負荷がかかります。繰り返し負荷がかかることで骨の修復できる以上の障害が続くと骨膜炎が生じ、さらに繰り返しの負荷が継続するとやがて疲労骨折を起こしてしまいます。
いわゆるソエの段階では、歩様の硬さや触診痛はあるものの、局所の冷却や運動強度を落とした調教に変更することで治療が可能です。特に育成期にはよくみられる疾患で、調教が順調にできない主な原因のひとつとなっています。一方で疲労骨折に至ると、跛行を呈することが多く、調教を継続することが困難になることがあります。
画像診断と治療方法
疲労骨折の症例において、X線検査では、第三中手骨背側(特に背外側が多い)に、遠位背側から近位掌側に向けた斜めの細い骨折線が得られます。運動制限による保存療法は一般的ですが、休養期間は比較的長く必要となります。また、3ヵ月以上も骨折線が消失しない症例があることが知られています。骨折線が消失しない症例における骨折線の臨床的な意義については議論がありますが、骨折治癒が不完全である可能性があり、運動復帰の時期が遅れやすくなります。また、第三中手骨の粉砕骨折症例を調査したところ、先行する骨損傷とそれに関連した骨増生がみられた*1ことが報告されており、致命的な骨折を発症してしまう懸念があります。
このような骨折の性質から、治癒を早めることを期待して、螺子固定術および骨穿刺術が検討されてきました。螺子固定術は、骨折線と垂直になるように螺子を挿入することで骨折線が開くのを抑制し、不動化することで治癒を早めることが期待されています。骨穿刺術は骨折部にドリル孔を空ける術式で、これにより骨の修復反応が活性化されると考えられています。近年海外では外科的な治療として螺子固定術が選択されることが多いですが、術者の経験や好みにより骨穿刺術と螺子固定を組み合わせることもあるようです。
螺子固定術
螺子固定は一般的には全身麻酔下で行われますが、立位での手術も検討されています。螺子固定術後は運動制限を行い、通常70-80日で(骨折線が残存するかにかかわらず)螺子を抜去します。その後は螺子の部分が骨で埋まるまで急に運動負荷を強めず、騎乗調教開始までは45-60日必要とされています。術後の競走復帰率は良好で、骨折の再発率は低く、致命的な骨折に移行した症例は報告されていません。*2*3
骨穿刺術
骨穿刺術単独で治療した症例報告では、競走復帰率は螺子固定と同様に良好*4*5であったものの、3頭が競走または調教中に致命的な骨折を発症*6していました。骨穿刺を複数ヵ所行うことで骨折部のギャップを埋めることはできるものの、骨は脆弱になっている可能性が示唆されています。
保存療法
保存療法はNSAIDs投与と馬房内休養および短時間のひき運動を中心に行い、触診痛や跛行の改善、X線検査による骨折治癒のモニタリングを行います。保存療法でも比較的良好な競走復帰が可能ですが、なかには骨折治癒が遅延してしまうこともあるため、経過次第で外科療法を検討することがあります。
保存療法と外科療法のどちらを選択しても、骨折治癒と臨床症状を慎重に評価して調教復帰のタイミングを探らなければなりません。
馬の骨折整復や診断、周術期管理について詳しく知りたい方におススメ
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