育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

膝関節の跛行と探査的関節鏡と掻爬後の長期成績44頭(Cohenら2009)

膝関節を原因とする跛行は、育成期には骨シスト状病変によるものが多いですが、高齢馬では関節内の軟部組織(靭帯、半月板、関節包、軟骨など)を損傷していることが多いです。

 

文献でわかったこと

膝関節を原因とする跛行の症例において、半月板の損傷は多くみられ、超音波検査による評価では、診断感度79%、特異度56%で半月板損傷を検出することができました。

関節鏡視下で病変を観察し、可能な範囲で掻爬および洗浄を行うことで、関節機能を維持できる可能性があります。しかし、負の予後因子として、高齢であること、半月板損傷の程度がひどいこと、跛行のグレードが高いこと、X線検査で重度の変化(骨関節炎所見)が挙げられています。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 膝関節の骨関節炎および関節内の軟部組織損傷がある馬の探査的関節鏡と掻爬術後の成績を調査すること。予後に影響する外科的所見または画像所見を明らかにすること。

 

デザイン

 症例集

 

動物

 膝関節に起因する跛行を呈した馬で、骨関節炎、半月板損傷、その他の関節内軟部組織損傷を関節鏡で診断した44症例

 

方法

 膝関節を原因とする跛行で、探査的関節鏡を行った症例の医療記録を回顧的に調査した。骨軟骨症病変、関節内骨折および骨シスト状病変をもつ馬は除外した。症例情報の解析と短期および長期成績を評価した。

 

結果

 X線検査と手術のスコアには関連がなかった。半月板損傷の診断において、超音波検査は感度79%、特異度は56%であった。追跡調査の情報は35症例で得られ、23症例(60%)は術後に改善がみられ、16症例(46%)は跛行がなく、13症例(37%)はもとの運動に復帰できた。年齢と術前の跛行グレードおよび成績には負の関連がみられた。術前のX線検査で、より重度の変化がみられた場合、予後と負の関連があった。グレード3の半月板損傷があった馬は術後に改善がみられず、半月板の病態が悪いことはもとの運動に復帰する予後には負の関連があった。術中のグレードと成績には弱い負の関連があった。軟骨損傷の程度、主病態の部位および微細骨折は成績への影響は認められなかった。

 

結論

 膝関節の跛行において、馬の年齢が高く、跛行が重度で、術前にX線画像で変化がみられ、大きな半月板損傷があることは、術後の成績に負の相関があった。術中の関節表面の所見は、予後因子としては一貫性がなかった。

 

臨床的関連

 重度な軟骨損傷でも、関節鏡での掻爬と洗浄後にもとの運動に復帰できる馬もいる。高齢で、術前の跛行がひどく、X線画像で重度の変化がみられ、重度の半月板損傷があると、予後はより悲観的である。