競走馬の骨折と調教内容について分析することは、疾病発生リスクを評価するうえで重要ですが、様々な要素が関わっていることやデータが取りにくいことが障壁となります。同一または同じような調教場を使って調教しているサラブレッドを対象にすることで、均一な集団とみなして調教内容によるリスク評価を行っています。
調査でわかったこと
英国ニューマーケットのグループが行った現役競走馬についての疫学的調査によると、
30日間の総調教距離と骨折発症には関係があり、30日でF14に満たない速度で44km以上調教すること、F14より速い速度で6km以上走行すると骨折リスクが増加しました。
調教を始めたばかりの1歳~2歳馬では高速で走行するギャロップを行えていることは骨折リスクとならないが、それでも走行距離が増えると骨折リスクが増えることが示されました。
臨床的には
骨に対する生体内での負荷は、骨の強度を上げるうえで必要なものですが、均衡が崩れてしまうと疾病発生に繋がると考えられます。
この境界を探りながら1頭ごとに調教を組み立てるのですが、この調査の結果はひとつの基準になりえます。もちろん、コース形態や地理的な差異は考慮する必要はありますが。
このグループが行った調査に関して、過去に紹介した記事では後肢の疲労骨折リスク因子についても評価されています。
参考文献
運動している集団において、骨折リスクを最小限にする調教計画に関する洞察を得るため、競走馬に関する大規模な疫学調査を行った。サラブレット競走馬は活発に運動している馬の集団における骨折発症や運動費関連したリスク因子の研究モデルに適している。この馬たちは均一な集団で、高強度の運動プログラムを受けていて、損傷リスクに影響する因子を明らかにするには十分に均一な集団である。1178頭のサラブレッドについて2年間モニタリングした毎日の運動に関する情報を記録した。この集団において、148件の運動に関連した骨折があった。網羅的な症例対照研究から、異なるスピードでの運動距離は骨折リスクへの強い相互の影響が示された。30日間で、キャンター(≦14m/s:F14より遅い)で44km以上走行する、またはギャロップ(>14m/s:F14より速い)で6km以上走行することは特に骨折リスクが増加した。これらの距離は、キャンターで7700回、ギャロップで880回の骨への負重サイクルに相当する。研究のサブグループである集団で56件の骨折が発生し、この集団は調教を開始した1歳馬(335頭)であった。本調査の集団における解析から、これまでにトレーニングを受けていなかった骨およびキャンター調教が増えることは骨折のリスクが増加した(P≦0.01)。一方で、高速のギャロップ調教は保護因子であった(P<0.01)ことが示された。しかし、短期間(1カ月以内)にキャンターもしくはギャロップで走行した距離が増えると、骨折のリスクは増加した。トレーニングで行うすべての運動には本来負荷がかかることで骨折のリスクがあるが、負荷により骨の細胞が刺激されより強固な構造となるという良い効果もあり、均衡がある。本研究の結果から、運動による骨の適応と損傷リスクに与える影響の根拠となる重要な疫学的情報であり、運動している集団においてより安全な運動レジメをデザインするための情報として使える。