育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走馬の肋骨骨折(Wylieら 2016年)

Twitterで紹介していただいた肋骨骨折の臨床例をまとめた報告について。競走馬に特異的に認められた第一肋骨骨折は、ストレス骨折である可能性が指摘されていて、これは付着する筋肉から受ける緊張に加えて、周囲組織から受けるストレスによる疲労骨折であると考えられているようです。

 

肋骨骨折は新生子馬で産道における圧迫が原因でおき、主に呼吸器や心臓など胸部臓器への影響が懸念されることが知られています。しかしこの骨折は成馬でもおきるし、跛行、騎乗を嫌う、パフォーマンス低下の原因にもなります。

 

 

 

Clinical Features of 50 Cases of Rib Fracture in Adult Horses

Wylie C.E. and Head M.J. from Rossdales Equine Hospital and Diagnostic Centre

presented at British Equine Veterinary Association Congress 2016

Equine Veterinary Journal Volume 48, Issue S50 01 September 2016

 

“抄録

研究を実施した理由

 成馬の肋骨骨折に関する情報は限られている。

 

目的

 成馬の肋骨骨折の臨床症状を報告すること。

 

研究デザイン

 症例集

 

方法

 2005年1月1日から2016年1月1日までの期間で、Rossdales馬病院で肋骨骨折と診断した1歳以上の成馬の電子カルテ記録を回顧的に調査した。

 

結果

 50頭の肋骨骨折が診断され、40頭は臨床的関連性があるとみなされた。来診時の年齢は2-17歳、中央値5.5歳で、サラブレッドまたはサラブレッド系が最も多く60%を占めた。オスが76%と多く、42%は競走馬であった。アクティブな骨折のうち、7頭(17.5%)は触診で疼痛があり、8頭(20%)は外傷歴があった。アクティブな骨折で記録された主訴は、グレード1-6/10の跛行(37.5%)、乗るときに抵抗する(32.5%)、外傷歴(15%)、触ると痛がる(2.5%)であった。診断に用いたモダリティは、超音波検査(82.0%)、シンチグラフィ(74.0%)、X線検査(74.0%)、診断麻酔(34.0%)であった。合計で66本の肋骨に骨折がみつかり、最も多かったのは第18肋骨(32.8%)、次いで第10肋骨(10.9%)であった。また右側で35.9%、左側で64.1%の骨折を認めた。第2,3,4肋骨を除き、どの肋骨にもどちらかの側で骨折を認めた。第1肋骨の骨折は5頭で認められ、これらは全てサラブレッド競走馬で年齢は2-7歳(中央値3歳)、片側の跛行が主訴であった。複数の骨折は5頭(10.0%)でみられ、このうち2頭は外傷歴がなかった。5頭(10.0%)で外科的な治療を行い、2頭は全身麻酔、2頭は立位鎮静下で肋骨の部分切除術を、1頭は全身麻酔下でLCPによる固定術を行った。”