第一指(趾)骨の骨折は、競走馬で多く発生し、矢状骨折の場合はスクリューによる内固定手術が必要となります。育成馬の診療では、第一指(趾)骨の矢状骨折は骨体の1/2前後に達する骨折線であることが多いです。ごく短い(10~20mm)骨折線が認められることもありますが、この場合は内固定したほうがいいのか、保存療法でも十分な成績が得られるのか、まだ決めかねています。ですが最近はたとえ骨折線が短く見えても、内固定手術した方が関節面の修復にはいい効果があると考えられているようです。
今回は英国における第一指(趾)骨矢状骨折の整復術を行った症例の治療成績についてまとめた論文を紹介します。
”背景
英国におけるサラブレッド競走馬の第一指(趾)骨の治療成績についての研究が最後に発表されてから30年が経過している。得られる結果を助言する際には最新の結果が必要である。目的
英国のサラブレッド競走馬における第一指(趾)骨骨折の整復術を行った馬の成績を収集し解析すること。研究デザイン
回顧的症例研究方法
5年間にニューマーケット馬病院に第一指(趾)骨の傍矢状骨折の評価のために来院した馬の記録を調べた。追跡調査では、整復した馬について競走成績を調査した。データが不完全であるものや粉砕骨折であったものは除外し、複合的なロジスティック回帰分析により、競走復帰に影響する因子やオッズ比、信頼区間を算出した。結果
整復したのは113頭で、骨折の形状は、短い(30mm未満)不完全傍矢状骨折が12頭(このうち前肢が10頭)、長い不完全傍矢状骨折が86頭(このうち前肢が63頭)、完全傍矢状骨折が12頭(このうち前肢が11頭)、粉砕は3頭であった。術後、54頭(48%)が出走した。2歳時に骨折した症例は、3歳以上で骨折した馬よりも競走復帰のオッズ比は高かった(OR 1.34、95%信頼区間1.13-1.59、P=0.002)。短い不完全傍矢状骨折は、完全傍矢状骨折よりも術後競走復帰のオッズ比は高かった(OR 2.62、95%信頼区間1.36-5.07、P=0.006)。粉砕骨折で競走復帰した馬はいなかった。主な制限
英国のサラブレッド競走馬のみのデータであること。結論
本研究では、整復術を行った半分が競走復帰できた。2歳時に骨折した馬の方が術後に出走した馬が多かったが、これはそれより年上の馬だと他の要素が絡んで引退したことを反映している可能性がある。骨折の形状により競走復帰への影響があることは、馬主が治療法を選択するときに参考になる。”