育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走用でない馬のP1短矢状骨折(Kuemmerleら2008年)

球節を構成する第一指(趾)骨(P1)における矢状骨折は競走馬に多く発生しますが、乗用馬にも発生することがあります。

なかでも短い矢状骨折については、軟骨下骨の骨硬化やシスト状病変を伴うことがあることがあることが報告されています。保存療法では跛行が持続する症例が多く、長期間のリハビリを経て運動を再開したところ、1年以上経ってから骨折が悪化した症例が複数ありました。一方、ラグスクリューによる固定や、シストをドリリングにより掻爬した症例では跛行が解消し、運動復帰することが可能であったと報告されており、外科的な治療により運動復帰できる可能性が保たれると示唆されました。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 競走用でない馬における、第一指(趾)骨(P1)の短い矢状不完全骨折について記述し、その成績を報告すること。

 

研究デザイン

 回顧的研究

 

動物

 P1短矢状骨折の馬10頭

 

方法

 P1短矢状骨折の症例馬のデータから、シグナルメント、経過、整形外科的検査の結果について調べた。X線検査画像を再評価し、骨折線の部位、長さ、骨関節炎の有無、軟骨下骨シスト状病変、骨増生および軟骨下骨の硬化について評価した。保存療法は4頭で、2ヵ月舎飼い、次の1ヵ月はひき運動を行った。外科的治療は6頭で、内固定手術が行われ、うち5頭はラグスクリュー法が用いられた。同時に軟骨下骨シスト状病変がみられた場合、皮質骨を貫いてドリリングして掻爬した。1頭は掻爬のみ行い、内固定をしなかった。全ての馬で、成績は臨床検査およびX線検査による追跡調査により評価した。

 

結果

 追跡調査の期間は9ヵ月から9年で、平均27ヵ月、中央値13.5ヵ月であった。追跡調査期間で、内固定手術を行ったすべての馬で跛行はなく、X線検査で骨折治癒を確認できた。保存療法の4頭は、3頭で跛行が持続し、骨折治癒の所見がX線検査で確認できたのは1頭のみであった。内固定手術をしなかった2頭は、それぞれ20ヵ月と30ヵ月で致命的な骨折線に広がった。

 

結論

 短矢状骨折で外科的治療を行った馬は保存療法より成績がよく、骨折治癒がみられない場合、のちに致命的な骨折をおこすリスクが増加するようだ。

 

臨床的関連性

 短矢状骨折では治癒と運動復帰できる可能性を最大化するために外科的整復を考慮すべきである。