育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

蹄部に痛みのある馬のトウ状骨遠位境界部の骨片に対するMRI所見(Biggiら2011)

トウ状骨はトウ嚢とよばれる袋の中に存在し、蹄骨と深屈腱の間に位置しています。アクシデントによる外力や外傷によって骨折がおきることが知られています。

トウ状骨骨折が起きると、中程度から重度の跛行を呈しますが、身体検査では特異的な所見が得られることは多くありません。蹄の熱感、蹄叉の打診痛または鉗圧痛、指動脈の強勢などがみられることがあります。

一方で、トウ状骨の辺縁に発生する小さな骨片も見られることがあります。X線検査ではスカイビュー像が最も診断に優れると考えられますが、骨や他の軟部組織との重なりがあること、辺縁全ての面を観察できないことから限界があります。また、この所見はときどき、臨床症状との関連がないこともあります。したがってより慎重な判断が必要となります。

 

トウ状骨辺縁に骨片が見られた馬のうち、症状のない馬と症状のある馬の違いは何か。臨床的に大きな関心が持たれているこのことについて検討した調査があります。

これによると、トウ状骨辺縁に骨片がある馬では、ナビキュラー症候群で見られるMRIの異常所見である骨グレードの悪化、シスト状病変、信号強度の異常などが関連してみられたことが明らかとなりました。この調査では、病院で検査を行った跛行がある馬が対象であったため、跛行のない馬の骨片と関連があるのか、今後調査が必要だと述べています。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

要約

研究を実施した理由

 トウ状骨遠位境界部の骨片は跛行している馬にも跛行していない馬にもみられ、この所見の臨床的意義はまだ議論されている。

 

目的

 トウ状骨遠位境界部の骨片とトウ状骨のMRI所見を記述すること。骨片とその他の異常所見およびトウ状骨不対靱帯(impair ligament)の関連を調査すること。

 

方法

 蹄部を原因とする前肢跛行があり、高磁場MRIを行った馬を組み入れた。遠位境界部の骨片は大きさと位置を記録した。トウ状骨の異常所見をグレード分類した。合計のトウ状骨のグレードを付与した。不対靱帯も分類した。遠位境界部の特定の病変、トウ状骨の合計グレードおよび不対靱帯の分類と骨片の存在との関連を検証するためにχ二乗検定を用いた。

 

結果

 427頭の馬を組み入れ、111の骨片がみつかった。骨片の存在と有意な関連があった所見は、トウ状骨の合計グレード、骨シスト状病変、遠位境界部の滑膜が陥入している数と大きさの増加、脂肪抑制像における信号強度の増加および境界部骨付部増殖体の増大であった。

 

結論

 遠位境界部の骨片とMRIにおける病的な異常所見に関連があった。

 

潜在的関連性

 遠位境界部の骨片はナビキュラー病の一部であるが、それらが疼痛と跛行にかかわっているかはまだ明らかにしなければならない。