育成馬臨床医のメモ帳

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トウ状骨遠位の骨片:跛行とMRIの関連(Yorkeら2014)

トウ状骨はトウ嚢とよばれる袋の中に存在し、蹄骨と深屈腱の間に位置しています。アクシデントによる外力や外傷によって骨折がおきることが知られています。

トウ状骨骨折が起きると、中程度から重度の跛行を呈しますが、身体検査では特異的な所見が得られることは多くありません。蹄の熱感、蹄叉の打診痛または鉗圧痛、指動脈の強勢などがみられることがあります。

一方で、トウ状骨の辺縁に発生する小さな骨片も見られることがあります。X線検査ではスカイビュー像が最も診断に優れると考えられますが、骨や他の軟部組織との重なりがあること、辺縁全ての面を観察できないことから限界があります。また、この所見はときどき、臨床症状との関連がないこともあります。したがってより慎重な判断が必要となります。

 

骨片が跛行とは必ずしも結びつかないことの要因の一つに、多くは両側で見つかる点が挙げられます。画像診断のみで「一方は跛行の原因になる所見だが、他方は跛行の原因にはならない」と判断することは困難を極めます。

MRIを用いてトウ状骨遠位の骨片を検出した馬と跛行の有無および骨片の大きさと跛行の重症度の関連を調査した文献があります。これによると、骨片は50%が片側、50%が両側に見つかりました。骨片の部位は患肢の外側が最も多く62%を占めていました。骨片があることで跛行があると判断される可能性は高くなく、骨片の大きさと跛行の程度には優位差はありませんでした。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

要約

 MRIの能力が向上し、トウ状骨遠位辺縁の骨片が多く検出されるようになったが、その臨床的意義はまだ不明確である。この回顧的調査の目的は、蹄部のMRI検査に来院した集団における骨片の部位、大きさおよび頻度を記述し、跛行の重症度とMRI所見を比較することである。2006年3月から2008年6月の期間でMRI検査と医療記録を収集した。MRI画像でトウ状骨遠位骨片が見られた馬を組み入れた。骨片が跛行と関連する、跛行の重症度が骨片の体積や両軸にあることと正の関連があるという仮説を、信頼区間の比較と線形回帰解析を用いて検証した。合計で453頭、874肢を組み入れた。骨片は60頭(13.25%)、90肢(10.3%)でみられた。50%は片側、50%は両側に骨片がみられた。トウ状骨遠位の骨片は外側62.2%、内側8.89%、両側28.9%でみられた。骨片があることで跛行と分類される可能性が上がることはなかった。骨片の体積と跛行の重症度分類には有意差はなかった。信頼区間解析によると、両側に骨片があると、跛行と分類される可能性が少し増えると示唆された。これらの所見から、MRI画像においてトウ状骨遠位骨片は跛行を示すことと関連はしないようであることが示唆された。

 

 

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