背景とはじめに
球節背側の骨片は、1回の大きな負荷もしくは慢性的な繰り返し負荷によるリモデリングから二次的に発生する可能性があります。
この骨片に対する治療は、外科的に摘出する方法とその成績が報告されています。一方で、内科的、保存的治療を行った場合の成績が報告されておらず、対照のない臨床データのみが集まっているという状態でした。
もちろん、外科的摘出は適切な治療法であり、骨片に起因する関節炎や二次的な骨関節炎および変形性関節症を回避できる可能性が高くなると考えることは合理的です。しかし、統計学的にこれを示した調査はありませんでした。
実際の臨床例では経済的な側面も考慮されるため、成績を比較することで、方針を決めるうえで重要な情報が得られる可能性があるため、この調査が行われました。
調査でわかったこと
実際にニューマーケットの馬病院でX線検査により骨片が見つかった2歳以上のサラブレッド競走馬について、その後の治療法を回顧的に調査して、外科と非外科処置群のグループ、骨片がなかったグループに分けました。回顧的観察研究のため、治療選択のランダム化は当然ありません。
この調査では、骨片摘出した馬は少なかったものの、勝利する割合や獲得賞金が高いことが示された一方で、骨片摘出しなかった馬は骨片がなかった馬のグループと競走成績に差がなかったことが示されました。
参考文献
背景
球節の背側骨片に対する治療方法として関節鏡手術が提唱されてきた。しかし、この骨折を非外科的に管理した馬の競走成績に関する調査は公開されていない。
目的
サラブレッド競走馬の球節背側の骨片骨折に対して外科治療または非外科的治療を行った馬の間で競走成績を比較すること。また、骨片のない馬とも比較を行った。
研究デザイン
2006-2014年の期間で行った、回顧的コホート研究
方法
サラブレッド競走馬のX線検査を回顧し、球節背側の骨片骨折症例を同定した。骨片のない馬は同じ調教場からランダムに選択した。競走成績は生存解析およびロジスティック、線形およびネガティブバイノミナル回帰解析*1を行った。
結果
球節背側の骨片は98頭で、非外科治療70頭、外科治療28頭であった。骨片のない馬は648頭であった。非外科、外科、骨片のない馬を比較すると、生涯出走回数、勝つ・入着する・1走で賞金を獲得する確率には差がなかった(P>0.05)。外科手術を行った馬の勝利割合(勝利数/出走数)は、非外科の割合(割合比1.6、信頼区間1.1-2.4、P=0.02)および骨片のない馬の割合(割合比1.9、信頼区間1.3-2.8、P=0.001)でよりも有意に高かった。外科手術を行った馬の生涯獲得賞金は、骨片のない馬の4.1倍(95%信頼区間は1.2-14.5、P=0.03)であった。一方で、非外科の馬は、骨片のない馬と生涯獲得賞金に差はなかった。
主な限界
治療選択はランダム化や盲目で行われていない回顧的観察研究である。外科治療を行った馬が少なく、外科治療を選択する潜在的バイアスがある。
結論
この研究の集団において、骨片のない馬と比較して競走パフォーマンスに与える影響とは関連がないことを考えれば、球節の骨片骨折に対する非外科的治療は妥当な選択である。