馬の胃潰瘍は、その一連の検査所見や症状から、馬胃潰瘍症候群EGUS:Equine Gastic Ulcer Syndromeと呼ばれるようになってきました。
ヨーロッパの大学の馬内科医による成馬の馬胃潰瘍症候群EGUSに関する合同声明が2015年に発表されていますので、これについて少しずつ書いていきます。
なお、Pubmed、JVIMから全文を読むことができますのでリンクよりご確認ください。
“病態生理
ESGDの発症にはさまざまな管理の要素が関わっている。これらの要素は共通した特徴をもち、無腺部の酸への曝露を増やしている。生体外の実験では、無腺部粘膜の細胞は、塩酸および揮発性脂肪酸による損傷を、用量および時間依存性に受けることが明確に示された。塩酸によって細胞障壁の外層が壊されると、これが無腺部の有棘層にまで拡散して潰瘍を引き起こす。濃厚飼料に含まれる糖の細菌発酵による副産物は、揮発性脂肪酸や乳酸だけでなく、胆汁酸も塩酸と相乗的に働くことが示されてきた。
調教と扁平上皮の酸への曝露の関係はよくわかっている。常歩以上の歩様では腹腔内圧が増加することで酸性の胃内容物が押し上げられ、扁平上皮が過剰に酸へ曝露を受ける。競走馬では、長期間の調教で強度が増していくのに関連して、扁平上皮において罹患率が高く、重症度が高く、数が多くなる。高いレベルのエンデュランス競技馬では、ESGDの重症度は距離と直接的な関連がある。
対照的に、EGGDの病態生理はよくわかっていない。腺部粘膜は無腺部粘膜と根本的に異なり、正常な状態で常に酸にさらされていて、特に胃の底部は安定してpH1-3である。ESGDは曝露に慣れていない粘膜が酸にさらされることで起こるが、EGGDは酸から粘膜を守る機構が破綻することでおきると考えられている。馬においてこの防御層の破綻に関わる要素は特定されていないが、ヒトでは、ピロリ菌やNSAIDsが胃潰瘍の優位な原因である。したがって、馬においてもこの2つに注目した研究が行われた。
現在のところ、EGGDへの細菌の関与は、文献でも矛盾が残っている。胃に適応した細菌や日和見感染の病原菌が無腺部の潰瘍に関わっているが、腺部の粘膜でも同様かは不明である。さらに、ESGDにはこのような細菌がいるが、その役割が酸抑制単独で二次的であれば問題ない。いくつかの研究でヘリコバクターの様な細菌はEGGDの馬で見つかっているが、他の研究では見つからなかった。
臨床例で、NSAIDsがEGGDの原因となる可能性も議論がある。フルニキシン、フェニルブタゾン、ケトプロフェンは、推奨量の50%増しで使うと胃潰瘍を起こしうるとされるが、フェニルブタゾンやスキシブゾンを臨床用量で15日間投与しても胃潰瘍は起きなかった。疾患のある馬でのEGGD所見率は高く、そのような症例はNSAIDs投与を受けていることが多い。
コメント:現在わかっている範囲では、最近が直接的な原因因子となる根拠は不足している。同様に、NSAIDsはそれぞれの症例でEGGDを起こしやすくなる可能性はあるが、集団として罹患率に重要な要素である可能性は低い。ヒト医療では多くの疾患で異なる病態生理によってPUDが起きていて、これと同様に、馬のEGGDにおいても複数の異なるメカニズムが発症に関わっている可能性がある。”