育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

ヨーロッパ馬内科医による成馬の胃潰瘍症候群についての合同声明③(Sykesら 2015年)

馬の胃潰瘍は、その一連の検査所見や症状から、馬胃潰瘍症候群EGUS:Equine Gastic Ulcer Syndromeと呼ばれるようになってきました。

ヨーロッパの大学の馬内科医による成馬の馬胃潰瘍症候群EGUSに関する合同声明が2015年に発表されていますので、これについて少しずつ書いていきます。

なお、Pubmed、JVIMから全文を読むことができますのでリンクよりご確認ください。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“疫学

 72年間にわたる、3715頭の剖検による調査から、潰瘍の存在と血統および性別が明らかに関係していることが示された。なかでもサラブレッドとスタンダードブレッドは、冷血種と比較して潰瘍になりやすかった。また、オス馬(種馬)はメスおよびセン馬と比較して罹患率が高かった。対照的に、サラブレッド競走馬に関する2つの横断研究では、年齢や性別の、ESGDのなりやすさに与える有意な影響は示されなかった。同様に、スタンダードブレッド競走馬における研究でも、ESGDの所見率と年齢に有意な相関は見られなかったが、加齢により潰瘍の重症度は増し、セン馬において相対的リスクが最も高かった。英国におけるレジャーおよびスポーツホース684頭の回顧的調査では、年齢、性別、来院時期とESGDおよびEGGDの罹患率との相関は見られなかった。しかし、どの年齢の馬でも、サラブレッドであることはESGD所見があることと相関していた。これらのことから、年齢や性別よりも運動の強度や期間などの他の要素がより影響していること、サラブレッドがESGDになりやすいという血統の影響があることが示唆された。

 EGUSに関して、他のリスク因子を調査した大規模な疫学的研究はほとんどない。ESGDとの関連が明らかになっている要素は、調教師、大都市の調教場(都会の調教場では3.9倍胃潰瘍になりやすい)、他の馬とのかかわりがない、馬房で音楽ではなくラジオが流れていることであった。麦稈を与えている、パドックで水が飲めないこともEGUSのリスクを増加させることが一般的に知られている。特に大部分が謎のままのEGGDについて、発症に影響する疫学的要素をより深く理解するために、さらなる大規模調査が必要である。”