育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の偽性血小板減少症の1例(Hinchcliffら JAVMA1993年)

 

はじめに

血小板とは

血小板は体内で1日当たり35,000/µL産生され、4-5日で破壊・回収されます。

血小板は、止血機構の主要な細胞です。しかしそれだけではなく、様々なメディエーターを産生することにより、炎症、っ芽根季、組織再生、さまざまな疾患の病態形成にもかかわっていることがわかってきています。 

アニメでも重要な役割でしたね。

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血小板減少症

血小板減少症となる主な要因は、血小板の消費過多、血小板の産生低下、血小板の破壊です。

最も多い要因は血小板の消費過多と破壊で、これは原発となる全身性の疾患から二次的に発生することがほとんどです。壊死性または絞扼性の腸管疾患や腸炎、腫瘍、DICなどでも血小板が急激に消費されることで血液中の血小板数が減少します。

 

偽性血小板減少症

血液検査(CBC)に用いる血液検体の抗凝固処理としてよく用いられるEDTAですが、実は試験管内で血小板凝集を起こすことがわかっています。凝集した血小板は、血球計算機で血小板としてカウントされません。したがって、EDTA処理した血液は偽性血小板減少症となる可能性があります。

www.jsth.org

 

文献でわかったこと

馬の偽性血小板減少症

馬の血液においても、EDTA処理した血液の血小板数は参照値よりも低くなる。

出血傾向の臨床症状が認められないにも関わらず、血小板数が少ない場合は偽性血小板減少症を疑う。

確定には血小板凝集を確認するか、EDTAとヘパリン処理したペア血液を比較する。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

要約

馬の血小板減少症は特発性もしくは慢性の感染または炎症性疾患(馬伝染性貧血、リンパ肉腫など)、薬剤投与、骨髄抑制、骨髄癆性疾患およびDICでみられる。本研究は、1頭の馬におけるEDTA依存性の偽性血小板減少症について記述するものである。EDTA処理した血液の血小板数は一貫して参照値の範囲より低かったが、ヘパリン処理した血液では参照値の範囲内であった。臨床的に出血傾向の所見がない馬において血小板減少症が認められるときは、EDTA依存性偽性血小板減少症を考慮すべきである。診断は、血小板の凝集をスクリーニングして確認し、ヘパリンとEDTAそれぞれで処理した血液を比較することで確定できる。