育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

歯根膿瘍と顎骨骨髄炎の治療

 

馬の歯科疾患

馬の歯周病は気付かれないうちに発生していて、臨床症状を呈すことでようやく気付かれるようです。

ある報告では、歯科検査において、歯の破折、喪失、感染といった歯周病が、臨床症状を伴わない馬の8%で認められました。*1

また、500頭の剖検では、80%もの馬に歯科疾患が見つかったと報告されています。*2

定期的な歯科検診や整歯処置を受けていればほとんどは予防できますが、それでも見つけられないものもあります。長い時間をかけて病態が進行しているため、治療は難しく、手こずることが多いです。

 

歯根膿瘍

歯根膿瘍は馬の歯周病で最も多い疾患の一つです。これは、本来の歯の構造が失われ、歯髄が露出することが原因と考えられています。歯髄から歯根部へと細菌が侵入して増殖し、やがて歯根部に膿瘍が形成されます。

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侵入した細菌は、歯が接している歯槽骨へと波及し、骨髄炎を起こすことがあります。

これにより、疼痛による食欲低下、体温上昇、骨周囲の腫脹による外貌上の変化が起きることで臨床症状が認識されます。さらに膿瘍が大きく形成され、最終的には自壊して(皮膚が破れて)、排膿することがあります。

 

骨髄炎

馬では、蹴られたり、激しく壁や木にぶつかったりすることで、顎骨骨折を起こす場合があります。たいていは変位を伴う骨折で、プレートやワイヤーによる内固定手術が必要となります。また、ほぼすべてが口腔内と連続した開放骨折となっており、口腔内の細菌が侵入することによる感染は避けられません。

 

エンピリックな治療

歯科疾患の感染原因となる細菌は、ほとんどがグラム陰性好気性または嫌気性細菌です。広域スペクトルの抗菌薬を用いた投薬治療が行われ、主にペニシリン、セフチオフル、ST合剤などが採用されています。バクテロイデス属の感染が疑われる場合には、メトロニダゾールを投与します。投与期間は通常21-30日程度と非常に長期間で、明らかな口腔内との連絡がある場合には4-6週間の長期投与が必要となる場合もあります。*3

 

細菌培養検査と薬剤感受性試験

適切な抗菌薬の決定には、膿瘍など感染部位から得た検体を用いた細菌培養検査および薬剤感受性試験が不可欠です。汚染が継続していて症状に改善が見られない場合は再検査を行い、菌交代や薬剤耐性を注視し適切な薬剤に変更する必要があります。

 

局所洗浄

排膿している場合には、排膿孔を拡張して定期的な洗浄を長期間行うことも効果的です。汚染が続いている場合にも、洗浄を続けることで物理的に細菌数を減らすことが治療に繋がります。