輸送に関連した肺炎は重篤化する可能性があるため注意が必要です。
発熱、尾翼開帳呼吸、呼吸数増加、胸部痛(動くと痛い、唸る)、沈鬱(頭が下がったまま、飼い葉も食べない)、鼻汁がみられる症例では、胸膜肺炎を疑って早急に治療を開始することが重要です。
効果的な抗菌薬投与を速やかに行うことができるかどうかが、競走馬としての予後だけでなく、生存の予後にも関わってきます。
胸膜肺炎について
馬の呼吸器疾患として、胸膜肺炎はそれほど珍しいものではありません。胸膜肺炎が起きるリスク因子としては、長距離の輸送、長時間頭を高くあげていること、運動、全身麻酔、ウイルス感染による気管粘膜線毛によるクリアランスの低下と免疫抑制が挙げられます。
臨床症状は、倦怠感、頻脈、頻呼吸、胸部痛、発熱、鼻汁、食欲減退があります。特に胸部痛(動くときに苦しがる、唸る)や胸部の打診痛は診断のキーポイントになります。
胸膜肺炎を発症した馬の競走復帰の可能性を少しでも高くするには、診断後の積極的な治療が不可欠です。
診断には超音波検査が重要で、胸腔内の胸水量や性質、貯留している部位、無気肺部、フィブリン析出など評価できます。確認できた胸水を抜去して細菌培養検査や薬剤感受性検査を行うことで、より有効な抗菌薬による治療を行うことが可能となります。
加えて、気管洗浄液や気管支肺胞洗浄液の細胞診や細菌培養検査も行うことが重要で、ここからもさまざまな細菌が分離されることがわかっています。
治療は抗菌薬および抗炎症薬の投与、胸腔ドレナージが主となり、補助的に補液や酸素吸入、栄養学的なサポートも行われます。内科的な治療で解決できないときは、たいていの場合、胸腔内でフィブリンによる癒着や胸水の貯留、壊死した肺組織が障壁となります。このようなケースではこれらの組織を外科的に切除する方法も検討されています。
胸膜肺炎と診断された馬の生存率は43.3%〜96%と報告されいます。ある調査では競走馬を治療した成績報告で、競走復帰率は61%、少なくとも1勝した馬は56%と報告されています。他の調査では胸部膿瘍の治療後に52%のサラブレッド競走馬が復帰しました。
しかし現在のところ敗血症性の胸膜肺炎の生存率に関わる因子についてのデータは限定的であり、シグナルメントや検査所見などの臨床情報を検討し、生存に関わる因子を明らかにするために本調査が行われました。
調査はPurdue大学とHagyard馬病院の医療記録をもとに回顧的に行われました。調査に組み入れられた馬は97頭で、このうちサラブレッドは58頭で、年齢中央値は2.5歳でした。
直近の長時間輸送があった馬は31%でした。臨床症状は発熱、元気消失、頻呼吸、努力性呼吸、鼻汁がみられました。
診断基準である気管吸引液と胸水の培養では、それぞれ98%と84%から細菌が培養・分離されました。しかし、気管吸引液と胸水から同じ細菌が培養された検体は20%でした。主にStreprococcus equi subsp. zooepidemicus、Actinobacillus sp.、E. coli、Staphylococcus sp.が分離されていました。
ほとんどの馬は治療を受けており、投与されていた抗菌薬はペニシリンとゲンタマイシン、メトロニダゾール、エンロフロキサシンでした。当初の投薬治療に対する反応は約1/3で悪く、二次診療施設に来院していました。
四肢の冷感がある馬には、蹄葉炎に対する予防的治療として蹄の氷冷が行われていました。
胸腔穿刺は71頭で行われ、左右の胸腔から中央値6Lずつ排液されました。
来診時の血液学的な検査項目で生存との関連が解析された項目は、BUN、クレアチニン、ナトリウム、クロール、総ビリルビン、ヘマトクリット、ヘモグロビン、RBC、桿状好中球でしたが、このうちオッズ比が高くなるのはクレアチニンでした。桿状好中球はオッズ比が高いものの、P値は有意水準以下でした。
そのほか、開胸、静脈輸液、酸素吸入も解析され、静脈輸液と酸素吸入はオッズ比は高いものの、有意水準は満たしませんでした。逆に開胸した症例は助かることが多いようでした。
参考文献
背景
化膿性胸膜肺炎は馬において疾病や死亡の一般的な原因であるが、生存に関わる因子のデータは限られている。
仮説と目的
化膿性胸膜肺炎の馬における生存を予測できる因子を同定すること。
動物
2つの二次診療施設における化膿性胸膜肺炎97症例
方法
回顧的調査。化膿性胸膜肺炎の診断は、敗血症または胸水貯留があり、気管吸引液 (TA)または胸水(PF)の細菌培養が陽性であることに基づいた。
結果
31%の馬は直近の輸送歴があった。臨床症状は、元気消失78%、頻脈75%、頻呼吸60%、発熱43%、CRT延長22%、腹部浮腫14%であった。最も多く見られた臨床病理学的な異常所見は高フィブリノゲン血症79%であった。来診時の血液検査で血清クレアチニン濃度が上昇していることは、生存OR, 5.13 CI,1.88-14.01 ;P=0.01)および運動復帰と負の関連があった(OR, 6.46 CI,1.10-37.92 ;P=0.034)。84のTA検体、67のPF検体を細菌培養に供し、98%と84%の培養陽性率であった。最も多く分離されたのはStreptococcus equi subsp zooepidemicusであった。細菌が生えるという点においてはTAはPFよりも感度が高かったが、PFから分離された菌のいくつかはTAからは分離されなかった。開胸は生存と正の関連があったOR, 0.13 CI,0.11-0.83 ;P=0.028)
結論と臨床的重要性
血清クレアチニンの上昇は悪い予後を予期するもので、脱水を反映している可能性がある。TAとPFの検体を培養に出すことが推奨される。胸膜肺炎の症例では開胸も考慮すべきである。
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