育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走馬における起源不明の化膿性滑膜炎(Byrneら2020)

主に当歳など子馬では、ストレスをはじめとするさまざまな原因で免疫機能が低下し、菌血症となった結果、血行性に化膿性滑膜炎が発生すると考えられています。

一方で、成馬では穿孔性の外傷など明らかな原因を伴わない化膿性滑膜炎はまれだと考えられています。

 

オーストラリア、ランドウィック馬病院からのレポートでは、11年間で11症例のケースレポートが出ています。これによると、感染の原因がわからない滑膜炎はまれなようです。半分の症例からは細菌培養でグラム陽性菌が検出され、第一選択となるセファロスポリン系抗菌薬に感受性であったことが示されています。しかし、滑液嚢内に感染がおこると、強い炎症が誘導され、組織の損傷が大きくなります。競走復帰できた症例は6例で、復帰までの期間は中央値221日と、非常に厄介な疾患です。

早期発見と早期治療(特に内視鏡下での洗浄またはNeedle-to-Needleでの洗浄)が非常に重要な疾患です。

 

育成期の馬は、子馬と成馬の中間であり、騎乗馴致のストレスによるものか、もう少し発生件数は多いです。細菌培養ではグラム陽性菌が多く、あまり耐性を示す菌は検出されていません。早期発見できている症例は予後もいいです。体温上昇、脚が着けない~常歩で明らかに跛行している、関節や腱鞘が腫れている場合には、速やかに処置することが重要です。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

背景

 成馬における起源不明の可能性滑膜炎による跛行はほとんどなく、過去の症例では血行性の感染が提唱されてきた。

 

目的

 サラブレッド競走馬の成馬における起源不明の可能性滑膜炎の特徴と結果について記述すること。

 

研究デザイン

 回顧的症例集

 

方法

 2005-2015年の期間の診療記録を調査し、起源不明の可能性滑膜炎と診断した成馬を同定した。臨床症状、臨床病理学的所見、微生物学的検査、画像所見を記録した。治療方法や手術所見、合併症、長期成績を評価した。

 

結果

 調査期間で症例は11頭であった。診断は臨床検査と臨床病理学的検査の所見に基づいており、これは他の化膿性滑膜炎症例と同じであった。滑膜炎の部位は、関節、腱鞘および滑液嚢であった。3頭で、関節鏡手術時にOCDまたは関節軟骨損傷が確認された。滑液嚢内の明らかな出血はみられなかった。滑液または滑膜生検の検体から、細菌培養陽性は6頭/11頭で、全てグラム陽性球菌が検出された。この分離された6つの細菌は、全て実験室的にはセファロスポリン系抗菌薬に感受性であった。1頭で患部と離れた部位に創傷がみとめられた。ほかに菌血症の原因となる可能性があるものは同定されなかった。治療方法は、内視鏡を用いた手術、立位での複数の針で穿刺・洗浄、局所還流、滑液嚢内および全身への抗菌薬投与であった。すべての馬は退院まで生存した。6頭/11頭は化膿性滑膜炎の治療後に出走し、競走復帰までの期間の中央値は221日であった。