育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

化膿性滑膜炎に対する連続的滑液嚢内抗菌薬投与31症例(Lescunら2006)

 

はじめに

化膿性滑膜炎は緊急疾患で、感染が見つかり次第、洗浄や抗菌薬投与を行うことが良好な予後に繋がると考えられています。

しかし、何らかの原因で発見が遅れたり、慢性化してしまった場合には、長期的な全身抗菌薬が行われることが多いです。これでも改善がみられなかった場合には穿刺による洗浄や関節鏡視下での洗浄などが行われます。

それでも治療への反応が乏しく、慢性化してしまった場合に、連続的な抗菌薬投与が検討されました。

 

文献で分かったこと

連続的滑液嚢内抗菌薬投与は、抗菌薬投与のために滑液嚢内に留置針を設置し、さらにそれに繋がるチューブを固定しておきます。これにより滑液嚢内に連日抗菌薬を投与することができ、感染のコントロールに有効と考えられました。

1週間以上経過した慢性の化膿性滑液嚢炎に罹患した症例で、なかには骨髄炎を併発している症例もいました。滑液嚢内への連続投与にはゲンタマイシンまたはアミカシンが用いられ、投与期間は平均6.1日でした。治療後は31頭中29頭で感染が解消し、長期追跡調査が可能であった症例は24頭中19頭が競走馬を含む意図した運動をすることができました。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 馬において、化膿性滑膜炎に対して、連続的滑液嚢内抗菌薬投与を行った馬の臨床所見、合併症、治療成績を明らかにすること。

 

動物

 22頭の成馬と9頭の子馬(1歳未満)

 

方法

 化膿性滑膜炎の症例で、連続的滑液嚢内抗菌薬投与を行った症例の記録を回顧した。臨床的な変数と治療後に馬が意図したパフォーマンスに復帰できたかの関連を調べた。

 

結果

 42の滑液嚢に対して連続的投与を行った。29症例は7日以上経過した慢性症例で、15症例は標準的な治療に反応しなかった。13の滑液嚢炎は、骨髄炎と関連していた。連続的滑液嚢内抗菌薬投与を行うまでの日数は、平均19.7日で、連続投与の平均期間は6.1日であった。カテーテル留置を行った部位からの一時的な排液は、カテーテル抜去時に8頭でみられた。2頭で投与システムの不具合がおきたが、治療期間中に修正できた。長期的な合併症はなかった。29頭(94%)の馬の39(93%)の滑液嚢の感染が解消した。20頭の成馬と8頭の子馬が退院できた。長期追跡調査を行った24頭中19頭は意図した運動に復帰した。

 

結論と臨床的関連性

 連続的滑液嚢内抗菌薬投与は、化膿性滑膜炎に対する有効な補助療法で。さまざまな滑液嚢に局所的な抗菌薬投与が可能となる。