はじめに
近位指節間関節の骨片は、レポジトリ検査などでまれに見つかることがあります。
しかしながら、この骨片の臨床症状や競走成績に与える影響に関する調査は多くなく、判断が難しいことがあります。
文献でわかったこと
ノルウェー大学からの報告では、6頭の若齢馬において骨片がみられ、このうち3頭は臨床症状がなく、両側に認められたとのことです。
このケースレポートでは、臨床症状を伴う骨片に関しては骨関節症(OA)が進行しており、骨片摘出を行ってもOAは進行していくことが示されました。
一方で、骨片があるものの症状を伴わなかった症例は、その後の検査でもOA所見が見られず、関節内で炎症を起こしていないことが示唆されました。このような経過は、成長期にみられる骨軟骨片であるOCDなどの病変でも同様です。よって、成長期の疾患が疑われています。その後、競走馬として出走可能でした。
レポジトリ検査など、対象が1歳馬である場合にはOCDのような病因が疑われ、その後に症状を示さない可能性があります。一方で、骨関節炎の所見がある場合には予後に影響があるかもしれません。
参考文献
目的
近位指節間関節の背内側面に骨軟骨片をもつ若齢馬における臨床所見と画像所見を明らかにすること。
デザイン
回顧的症例研究
動物
6頭の馬
方法
医療記録を回顧調査。追跡調査は馬主や調教師に対する電話聞き取りまたは競走成績を調査した。
結果
症例は1-4歳。2頭で両側の前肢、1頭で両側の後肢に骨軟骨片の所見がみられた。X線検査において、1つの骨片を除き、全て第一指骨の遠位端背内側面から発生していた。骨片の大きさは6×9~11×21mmであった。3頭でこの関節を原因とする跛行がみられたが、残りの3頭はこの関節を原因とする臨床症状はみられなかった。意図した運動には適さないと判断され、馬主の希望で2頭は安楽死となった。偶発所見として骨片が見つかった3頭のうち、2頭は競走できた。このうち1頭は関節内ステロイド投与を受けた。残りの1頭は関係のない整形外科的な問題で引退した。
結論と臨床的関連性
本調査の結果から、若齢馬において近位指節間関節の背内側面の骨片は偶発所見である可能性があることが示唆された。骨片がみられた9関節のうち5関節に臨床症状がなかったこと、6頭中3頭で両側に骨片がみられたことから、成長期の疾患であることが疑われた。