育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

2歳サラブレッド競走馬の運動器損傷のリスク因子(Coggerら2006年)

運動器損傷のリスク因子に関する解析は、非常に難しい調査です。調教場や調教師によって方針が異なることや、馬によって調教メニューをアレンジすることが普通です。したがって、実際の症例や調教している競走馬の集団についてどんな方法を用いて調査しても、獣医や調教している人が肌で感じる感覚ほど、明確な傾向が出ないことがほとんどです。

シドニー大学からの調査報告では、2歳馬の調教において、40%がハロン15秒の調教を始めるまでに運動器損傷を発症していました。また、ハロン15秒以上の調教距離が長いこと、ハロン15秒以上の調教の日の割合が高いことが運動器損傷のリスク因子となる調教メニューであることが明らかにされました。しかしながら、この調査に参加した14名の調教師によって調教は大きく異なっていることや、調教場が異なることも影響している可能性があり、さらなる解析が必要であると述べられています。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

競走馬において、運動器損傷は休養し数日または数週間調教できない最も多い原因となってきた。いくつかの調教、トラックおよび馬に関するリスク因子が明らかとなってきた。しかし、これらの因子の相互の関係について明確な理解はされていない。この長期的なコホート研究の目的は、2歳サラブレッド競走馬における運動器損傷のリスク因子を調査することである。オーストラリアのサラブレッド競走馬の調教師を便宜的に抽出(Convenience Sampling)し、27カ月間の長期的なコホート研究に組み込んだ。本研究の馬は全てこの調教師による調教を受けた2歳サラブレッド競走馬であった。追跡調査は組み入れた日から調査期間の終了または追跡できなくなった時までであった。約14日間隔で調教師を訪問し、調教や損傷のデータを収集した。調教日は、最速の走行タイムが800m/min(ハロン15秒)より速い場合、速い調教と分類した。それぞれの馬で、1つ以上の速い調教日を含む初めの期間を解析した。多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、運動器損傷に関連する馬および調教に関連する変数を解析した。

5つの調教場で、14名の調教師により調教された274頭の馬についてデータを得た。40%の馬が初めの調教期間で運動器損傷を負った。800m/min(ハロン15秒)以上で走行した平均距離および初めの速い調教の日から調査終了までの期間における速い調教日の割合のみが運動器損傷と関連する変数であった。

このような変数はあるものの、調教師によるばらつきは依然として非常に大きい。このことは、たとえば800m/min(ハロン15秒)以上の速度で走行する距離の増加率など、他の調教に関連する変数が運動器損傷のリスク因子となる可能性を示唆している。加えて、他にも例えば獣医師がどの程度かかわっているかや、調教場/調教馬場など他の要素がリスク因子となる可能性がある。調教師やトラックに関連するリスク因子の関連を明らかにするには、マルチレベルモデルによるさらなる解析が必要である。