育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

2歳競走馬における中手骨背側の疾患リスクと骨代謝マーカー(Jacksonら2005年)

中手骨背側の骨疾患

若齢の競走馬でよくみられる中手骨背側の骨疾患(DMD)は、小さな骨損傷および骨膜炎を主体とする病態で、疼痛や跛行を伴います。軽微な症状であれば調教は継続できるものの、疼痛や跛行が明らかな場合、治癒を優先させなければいけない状況になると、調教強度を落とす必要があります。これは若い馬の貴重な調教期間を奪うことに繋がります。

equine-reports.work

 

 

早期診断は可能か?

血清中の骨代謝マーカーを測定することで中手骨背側の骨疾患発症を予測できるか調査した報告があります。これによると、調教を行っている馬に対して秋季に血液検査を行い、1型コラーゲンC末端テロペプチド(1CTP)の血清濃度が高いことが、その後のDMD発症と関連していたことが明らかにされました。

ただし、血液サンプル採取からDMD発症までの期間は平均6ヵ月でした。バイオマーカーは、そのタイプにもよりますが、その時点での生体内の代謝を反映していると考えられます。発症にいたる期間でのバイオマーカーの変動は気になることろです。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 中手骨背側の疾患(DMD)は2歳の競走馬でよくおきる問題で、調教できる日が失われる。骨の細胞の活性を示す生化学マーカーが調教初期に測定し、中手骨背側の疾患を発症する2歳競走馬を検出できれば有用である。

 

目的

 調教初期に測定した血清中のオステオクラチン、1型プロコラーゲンC末端プロペプチド(P1CP)、1型コラーゲンC末端テロペプチド(1CTP)の濃度がDMD発症リスクと関連するか明らかにすること。

 

方法

 11月後半から12月初旬にかけて、サラブレッド2歳競走馬165頭から血液検体を採取した。オステオクラチンとP1CPは骨形成マーカーとして、1CTPを骨吸収マーカーとして測定した。調教および獣医の診療記録を調教または競走している期間(10ヵ月)でモニタリングした。症例はDMDの症状が重度で調教できない日が連続で5日間以上あった馬と定義した。分類の系統樹およびロジスティック回帰解析を行い、DMDリスクを予見するのに最も重要で適した要素を同定した。

 

結果

 調査期間中にDMDを発症したのは24症例(累積発症率14.6%)で、発症がみられるまでの平均の期間はおよそ6ヵ月(5月)であった。最も早かった症例は2月で、最も遅い症例は9月であった。調教初期段階におけるオステオクラチンおよび1CTPの血中濃度は、その後にDMDを発症した症例において有意に高かった。DMD症例(21.04ヵ月)は、非症例(20.44ヵ月)と比較して年齢も有意に高かった。多変量解析回帰モデルによると、調査期間におけるDMD発症の可能性を予期する診断方式は確立できそうである。これによると、1CTPの血中濃度が12365µg/lを超え、20.5カ月齢以上の馬は2.6倍DMD発症を発症しやすい。

 

結論

 骨吸収マーカーである1CTPの測定は、2歳時のDMD発症リスク増加を同定するのに有用である。

 

潜在的関連性

 本調査で分かったこと、たとえば調教に短い距離の速い運動を導入するなど、調教の方針を変更することと同時に行えば、DMDによる調教ができない期間を減らす助けになるかもしれない。