育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の炎症性腸疾患【IBD】

人における炎症性腸疾患は、特定疾患に指定されている(いわゆる難病指定されている)潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される腸に炎症を起こす疾患です。

近年、遺伝、環境、腸内細菌群など、さまざまな要素が関わっていることが判明してきましたが、その正確な病態については未解明な部分が多く残る疾患です。

詳細は日本消化器病学会が作成しているこちらのパンフレットをご覧ください。

 

動物では、小動物領域で研究が進んでおり、なりやすい犬種なども明らかになってきています。しかし、人と同様に、再燃期と寛解期を繰り返すという特徴を持ち、症状をコントロールするために長期的な投薬が必要となります。

 

診断は、感染性疾患や抗炎症薬に関連した潰瘍などと鑑別することが重要となります。まずは各種検査で鑑別診断のリストを除外していきます。その後、組織生検などを行って確定診断を行います。

 

馬においても、診断のステップは同様で、確率の高い疾患から除外していきます。そして、生前に確定診断をつけるには組織生検が必要ですが、それも生体への負担が大きく、難しいことも多いです。

   

 

炎症性腸疾患IBD(Inflammatory Bowel Disease)は、馬では検査結果や臨床症状から推定診断がなされます。もっとも共通してみられる臨床症状は体重減少で、他には繰り返す疝痛、元気低下、下痢があります。臨床検査では、血液学・血液生化学的検査において、 低タンパク血症、低アルブミン血症、γグロブリン増加などがみられます。しかし、これらの検査結果や臨床症状は非特異的に消化器疾患にみられる所見です。

経過が長く、感染性や寄生性疾患との関連がない場合に、IBDが疑われます。 IBDを疑う症例では、海外ではOGTT(経口糖負荷試験:Oral Glucose Tolerance Test)が行われます。複数の検査を組み合わせて、それらの結果から推定診断を行いますが、確定診断には十二指腸および直腸からの生検検体を病理組織学的に診断することが必要です。

治療には抗炎症薬である糖質コルチコイド(ステロイド)の投与や、食事の変更などが行われますが、確立されたものはまだありません。

 

*OGTTについて

OGTTは、糖代謝を調べる試験であり、糖尿病などの診断に用いられています。糖を経口で摂取し、決められた時間おきに血糖値を測定する試験です。

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