9アパフォーマンス
馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。
まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。
体温調節機構の異常の場合
汗腺の機能不全 Anhidrosis
動物は体温を調節するために発汗する機能を有しています。とりわけ馬では汗腺は全身に分布していて、体内の熱を発散するために多くの汗をかきます。また、競馬前の馬で発汗が多くみられるように、交感神経刺激から放出されるエピネフリンの影響も大きく受けます。
しかしながら、高温多湿な地域で育ったサラブレッドには、汗腺がうまく機能しない馬がいることが報告されています。北米における大規模調査では、2%の馬がこの機能不全を持っていることがわかりました。また、環境要因だけでなく、家族性の疾患であることも疑われていて、家族内にこの機能不全を持つ馬がいると、有病リスクが高くなることが報告されています。
発汗できないことにより熱放散がうまくいかなくなることは、パフォーマンス低下の原因となります。代わりに呼吸回数を増加させて、体内の熱をどうにかして放出させようとします。汗の量が減少することは気づかれにくいかもしれませんが、異常な呼吸回数の増加と体温上昇および運動不耐性が、この疾患を疑う症状となりそうです。
参考文献
Katherine L. Ellis, Erin K. Contino, Yvette S. Nout-Lomas
Equine Vet Educ. 2022;00:1–17
汗腺の機能不全
症状
汗腺の機能不全の特徴は、汗が出ないまたは少ないことである。この疾患は、高温多湿な環境、特に夏場に最も多くみられる。環境要因により分泌されたエピネフリンによる汗腺の刺激が長期化することに起因すると考えられている。刺激が長期化することによって、汗腺がエピネフリンに対して反応しなくなる。汗腺の分泌細胞において活性の強い水チャネルであるアクアポリン-5(aquaporin-5)は、汗腺の機能不全の馬では活性が低い。フロリダ州における4620頭の疫学調査では、2%の有病率が報告されている。サラブレッドおよび温血種がなりやすく、米国西部から中西部で生まれた馬もなりやすい。家族性の疾患のようで、家族内に疾患を持つ馬では、有病オッズが6.87であると報告されている。
汗が少ない、またはかかないことは、乗り手や調教師が気づかないこともある。プアパフォーマンス、運動不耐性、運動後の努力呼吸がしばしばみられる。顕著な頻呼吸(60-120bpm)がみられることがあり、最も多い臨床症状である。体内の熱を放散するために頻呼吸を呈す。運動後の直腸温上昇もみられる。長期経過の汗腺の機能不全では、皮膚の変化がみられ、乾燥して粗剛な被毛、鱗屑や脱毛が、特に顔面、頸および肩にみられる。部分的な機能不全では、たてがみ、鞍下、無口、腋下、鼠径および会陰部には発汗がみられ、これらは汗腺が集中している部位である。
診断
確定診断には、β2アゴニストであるテルブタリンまたはサルブタモールを用いた皮内投与試験が行われる。頸部皮下に、コントロールである生食と段階的に希釈したβ2アゴニストを投与する。正常な馬であれば、どの濃度のβ2アゴニスト投与後も発汗する。部分的な機能不全であれば高い濃度で発汗がみられるが、重度の機能不全では全く発汗しない。