育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬のプアパフォーマンス:整形外科以外の診断について(Ellisら2022) ⑨汗腺の機能不全

9アパフォーマンス

馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。

 

まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。

 

 

 

体温調節機構の異常の場合

汗腺の機能不全 Anhidrosis

動物は体温を調節するために発汗する機能を有しています。とりわけ馬では汗腺は全身に分布していて、体内の熱を発散するために多くの汗をかきます。また、競馬前の馬で発汗が多くみられるように、交感神経刺激から放出されるエピネフリンの影響も大きく受けます。

しかしながら、高温多湿な地域で育ったサラブレッドには、汗腺がうまく機能しない馬がいることが報告されています。北米における大規模調査では、2%の馬がこの機能不全を持っていることがわかりました。また、環境要因だけでなく、家族性の疾患であることも疑われていて、家族内にこの機能不全を持つ馬がいると、有病リスクが高くなることが報告されています。

発汗できないことにより熱放散がうまくいかなくなることは、パフォーマンス低下の原因となります。代わりに呼吸回数を増加させて、体内の熱をどうにかして放出させようとします。汗の量が減少することは気づかれにくいかもしれませんが、異常な呼吸回数の増加と体温上昇および運動不耐性が、この疾患を疑う症状となりそうです。

 

 

 

参考文献