プアパフォーマンス
馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。
まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。
循環器疾患の場合
運動している若い馬における心雑音は、機能的で害のないものが多いとされています。心臓弁の機能障害による逆流は、老齢になるほど多くみられ、重症度や部位によって臨床的な意義が異なります。運動している馬で最も多くみられるのは右の房室弁である三尖弁逆流です。これが臨床的な意義をもつことはほとんどありません。僧帽弁閉鎖不全症は、左の房室弁におこる逆流で、重度な場合には心不全症状がみられることがあります。最も臨床的に重要なのは大動脈弁逆流で、重症例では突然死のリスクが高くなり、馬と騎乗者の安全が確保できないために騎乗すべきでないとされています。
参考文献
症状
構造に異常のある心疾患と関係ない心雑音は馬で多くみられる。これらは機能的、生理的、無害な、乱流による雑音で、運動している馬に一般的にみられる。心エコー検査を用いて、臨床的に意義のない心雑音と、現在もしくは将来的に臨床的意義をもつ心雑音を区別することが重要である。
英国における平地および障害競走において、代償性機構が働けば、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁の逆流はパフォーマンスに負の相関がないことが示されてきた。しかし、大動脈弁機能不全は、老齢馬に多くみられ、場合によっては運動中の運動失調と関連することがある。大動脈弁機能の馬では、左心基底部を最強点とする拡張期デクレッシェンド型雑音が聴取できる。この雑音は楽音的といわれ、雑音の強度に基づいて心疾患の重症度を予測することは難しい。したがって、突然死の可能性があることから、多くの症例でさらなる検査を行うべきである。
重度の僧帽弁逆流ではプアパフォーマンスを起こすことがあり、左心尖部を最強点とする収縮期雑音が聴取される。しかし、パフォーマンスに影響するほど重篤な場合、通常はほかの心不全兆候を伴う。一般的には、僧帽弁閉鎖不全症では、G3/6以上の重症度であればさらなる検査をすべきである。
三尖弁逆流は、競技馬では最も多くみられる心雑音であるが、臨床的に影響することはほとんどない。この雑音は右側心尖部を最強点とする雑音として聴取される。G4/6以上の雑音では詳細な検査が推奨される。
診断
心エコー検査によって雑音の原因が特定できる。大動脈弁機能不全の馬では、二次的な僧帽弁閉鎖不全症も評価する。もしどちらもみられるなら、予後にはより注意が必要である。二次的な心房細動がないか確認するため、心電図検査も行うべきである。疾患の重症度によるが、6-12ヵ月ごとに心エコーによる再検査を行い、構造的な変化の様子とその速さを評価すべきである。
|