育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

種子骨尖部骨折 2歳未満の場合(Schnabelら2007年)

競走馬によくみられる種子骨尖部骨折ですが、出走歴がない馬でも発症します。今回は、2歳未満のサラブレッドにおける種子骨尖部骨折と術後の競走成績についての論文を紹介します。

文献のハイライト

レポジトリー検査などで発覚した、跛行のない症例が対象で90%が1歳。

後肢が圧倒的に多く(92%)、左右・内外の偏りなし。前肢は内側が90%

出走率は後肢で高く(86%)、前肢内側が4/9(44%)で最も悪い。

 

臨床的には

残念ながら、育成期(特に後期育成期)の急性発症した種子骨骨折ではなく、無症状でレポジトリー検査のときに発覚した骨折が対象の治療成績でした。確かに骨片が大きければ、変位していれば、調教が進むと跛行を示す馬もいるため、手術を検討する余地はあると思います。しかし、レポジトリー検査の時点でその判断を行うことは非常に難しいです。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由
2歳以上の競走馬において、種子骨尖部骨折の関節鏡下摘出術では高い成功率が報告されてきた。しかし当歳~1歳でこの手術をした馬の競走馬としての予後に関する報告はない。

目的
2歳未満の未熟なサラブレッドにおける種子骨尖部骨折の発症率と、151頭の当歳~1歳サラブレッドにおける関節鏡下摘出術後の競走成績を明らかにすること。

方法
2歳未満のサラブレッドで種子骨尖部骨折に対して、関節鏡下摘出術を行った症例について医療記録を調査した。競走記録から追跡調査を行った。Studentのt検定を用いて、母系兄弟と成績を比較した。

結果
後肢が139/151、前肢が11/151(8%)で、前後肢は1頭であった。前肢骨折の出走率(55%)は後肢骨折の出走率(86%)よりも非常に低かった。全体では術後の出走率は84%で、母系兄弟の出走率78%(787/1006)と差はなかった。

結論
2歳未満のサラブレッドにおける種子骨尖部骨折に対する関節鏡下摘出術は、後肢では非常に良好な予後で、前肢ではそれほど良くなかった。前肢内側の骨折が最も予後が悪かった。

潜在的関連性
予後を明らかにすることで、種子骨尖部骨折の理解が増し、関節鏡手術による競走能力の保持ができる可能性が高まり、これによってセリに出す1歳の価値を保てる。