種子骨尖部骨折の予後を術前に判断する材料として、骨片の大きさ、形状および位置に注目し解析した論文を紹介します。
背景
〇種子骨の様々なタイプの骨折を調査した報告において、内側種子骨では横断骨折が、外側種子骨では斜骨折が多かった。
〇骨折の部位に加えて、種子骨炎、繋靭帯炎、球節炎が種子骨骨折の予後に影響する因子とされる。
〇骨片摘出した場合に、前肢内側では出走率46%(13/28)、前肢外側では出走率100%(13/13)と有意な差があった。また総獲得賞金および1走あたりの賞金も少なかった。
これらの情報がこれまでの研究で判明していました。筆者らは解剖学的位置(前肢or後肢、内側or外側)だけでなく、その骨片の大きさも予後に関係しているのではないかと考えました。
目的
①種子骨骨折の解剖学的位置(内・外や前・後)は予後に影響するが、骨片の大きさや形状も異なるのか
②骨片の大きさや形状が予後に影響するか
材料と方法
全てサラブレッド競走馬で110頭の当歳および1歳馬と、56頭の調教中の競走馬を対象としました。当歳および1歳は症状なくレポなどの調査で発見され、競走馬は跛行を示してました。
骨片摘出はRood and Riddle馬病院にて関節鏡視下で行われました。
X線検査にて30度背内-掌外もしくは30度背外-掌内で骨片の大きさを評価しました。骨体に対する骨片の大きさを割合として評価するため、軸側および軸外側の長さを計測し、割合を算出しました。
術後の1走あたりの獲得賞金、出走回数を調査し、対数をとって比較しました。
発症部位における骨片の大きさと割合の違いは、記述統計と分散分析を行いました。骨片の大きさと術後の1走あたり賞金および出走回数の関係は、回帰解析を行いました。
結果
当歳および1歳では、骨片の大きさは平均で19.8-26.8%で、斜骨折もあれば横骨折もありました。骨片の大きさに部位による有意差は認められませんでした。
調教中の馬では、骨片の大きさは平均で17.4-28.3%で、骨片の大きさに部位による有意差は認められませんでした。
骨片の大きさと術後1走あたり賞金および出走回数の解析では、どちらも有意な相関は認められませんでした。
骨片の部位と形状に関する解析では、未調教馬の前肢内側種子骨の骨片は、他の部位と比較して有意に横骨折に近い形状になっていました。その他では偏りは見られませんでした。また、軸側方向の大きさと軸外側方向の大きさの比率(斜骨折に近いか横骨折に近いか)は、術後の出走回数や1走あたり賞金と相関は認められませんでした。
仮説の検証結果としては、①に関して、未調教馬でのみ前肢内側種子骨が横骨折に近いことが分かりましたが、他にはこれといった特徴が認められませんでした。②に関しては骨片の大きさと術後の成績と相関が認められず、否定されました。
考察
本研究から、調教の経験によらず種子骨近位部の骨折は発症し、たいてい20-30%の大きさであることは共通していました。
骨片の大きさを計測しても予後を予測することはできませんでした。軸外側に長い骨片では、繋靭帯の付着部がより損傷しているはずですが、成績には影響しませんでした。
斜骨折か横骨折かは成績には影響しませんでした。前肢内側ではより横骨折に近くなっており、これまでの報告では成績が良くないとされていましたが、本研究では相関は認められませんでした。
これまでのサラブレッドでの報告では、前肢内側種子骨の骨折は、術後の出走率および1走あたり獲得賞金が少なく、予後に影響するといわれてきました。しかし、今回のデータでは骨片の大きさによる分析を行ってもこのような差は認められなかったことから、他の解剖学的、物理的、生体力学的な要素が予後に影響しているかもしれません。
今回は種子骨炎や繋靭帯炎については解析しておらず、これらの影響も無視できません。
共通認識として、骨片が大きいほど予後は悪いと考えられていましたが、本研究において種子骨尖部1/3の骨折に関しては骨片の大きさは予後に影響しないことが明らかとなりました。
臨床的には
骨片が大きければ成績に影響すると思われていますが、実は差がなかったという点が興味深いです。しかし本文でも言及されているように、より大きく予後に影響すると考えられる種子骨炎や繋靭帯炎が考慮されていません。特に繋靭帯炎の評価の重要性を改めて認識する報告でした。