育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

調教に対する種子骨の生体適応を定量的に評価(Youngら 1991年)

種子骨は常に運動によって負荷を受けています。では種子骨はその負荷に対してどのように対応・反応・適応しているのでしょうか。そしてその変化はどこから生理的なものと病的なものに分かれていくのでしょうか。まだまだ生体の構造にはわかっていないところがたくさん残っているのですが、その解析に取り組んだ文献を紹介していきます。

 

文献でわかったこと

調教によって骨の多孔度は下がり、石灰化が促進されていくことがわかりました。これが調教負荷に対する種子骨の適応なのでしょう。この研究では調教開始から5か月間ですので、まだ競馬に出走するほどの負荷はかけられていません。ここからさらに負荷が増大していくとどうなるのか。そして繰り返し負荷に対する反応はどうなるのか。非常に興味深いところです。しかし現在ではやはりこのような、特に生きた動物を用いた研究は倫理的に問題視されるために実現が難しいでしょう。

近年の研究は疾病の発生を防ぐことを目的として、残念ながら救うことができなかった動物を対象とした解析が増えています。もし致命的な骨折をしてしまった部位に前駆的な病変が共通して認められれば、それを生前に診断できれば救命できる可能性が高まります。明日以降はそのような文献を中心に紹介していきます。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”要約
8頭の未調教のサラブレッド種2歳馬を用いた。2頭ずつ以下の4グループに振り分けた。
グループ1:調教せず、放牧のみ(コントロール
グループ2:ダートトラックで改変した古典的調教
グループ3:ダートトラックで古典的調教
グループ4:ウッドチップで古典的調教
調教中にはそれぞれ28日毎に蛍光色素で標識した骨ラベルを与えた。5ヵ月間の調教を行った後に全ての馬を安楽殺し、種子骨を採取した。85-95ミクロン厚で矢状中央断面を薄切し、コンピューター画像解析および落射蛍光顕微鏡を用いた組織形態学的解析を行った。多孔度(%)、骨細管径(µm)、異方性の程度(%)、石灰化面(%)、石灰化面分画(%)、骨石灰化速度(µm/日)はそれぞれの検体の5つの輪状領域から決定した。領域1は種子骨尖部、領域2-4は軟骨下骨プレート、領域5は基部の関節辺縁部であった。データは領域および調教による比較ができるように集めた。
ダートトラックで調教した馬(グループ2および3)ではグループ1と比較して有意な多孔度の低下と骨細管径の増大を認めた(P<0.05)。調教を受けた馬(グループ2-4)は、グループ1と比較して有意に骨石灰化面が大きかった。石灰化分画からは、ダート調教馬の種子骨には急速で活発な内骨膜面の反応がみられた。”