育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

披裂軟骨部分切除と粘膜縫合の長期的研究(Parenteら 2008年)

披裂軟骨炎が内科的治療で奏功しなかった場合、披裂軟骨切除を検討します。この方法は、披裂軟骨のどこまでを切除するかが議論になっていて、再発せず合併症が少ない術式が試行錯誤されてきました。

披裂軟骨の粘膜面は刺激を受けることによって肉芽腫を形成することが多く、粘膜面の管理は課題のひとつです。そして披裂軟骨を切除すると、嚥下時にどうしても喉頭に隙間ができてしまうために誤嚥を起こしやすくなってしまいます。

今回紹介する文献は、披裂軟骨を部分的に切除する術式をおこなった馬について、その手術の影響を長期的な観察で評価した研究です。

   

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を実施した理由
 競走馬において、披裂軟骨の部分切除の有効性やどれが最善の方法なのかは分かっていない。本研究はサラブレッド競走馬に対し、片側の披裂軟骨部分切除および粘膜縫合を行った際の出来と合併症について評価するために行った。

仮説
 披裂軟骨部分切除は、披裂軟骨炎や喉頭形成術が失敗に終わったサラブレッドに対して行い、術前と同じレベルの競走復帰に有効な手段である。

方法
 1992年から2006年にニューボルトンセンターに来院した76頭のサラブレッド競走馬を評価した。医療記録から、個体情報、喉頭の異常、手術所見、入院中のその他の所見を調べた。競走成績も評価し、これらの独立変数との関連を解析し、P<0.05を有意とみなした。

結果
 76頭のうち、披裂軟骨炎が54頭、喉頭形成術がうまくいかなかった症例が22頭であった。13頭(17%)は、披裂軟骨切除部位に形成された肉芽腫を切除するために再手術を要した。73頭は退院でき、競走成績の調査を行った。60頭(82%)は術後に出走を果たし、46頭(63%)は術後5回以上出走した。術後初出走までの期間中央値は6ヵ月であった。平均の1走あたり獲得賞金は手術前後で有意差はなかった。術後の獲得賞金について、年齢、性別、損傷部位、損傷のタイプ、気管挿管の期間、再手術を行ったことは、いずれも有意な関連は認められなかった。

結論と潜在的関連性
 サラブレッド競走馬は、片側の披裂軟骨部分切除および粘膜縫合によって、術後はもとのレベルの競走パフォーマンスに復帰できる可能性がある。”