育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

喉頭片麻痺治療のための披裂軟骨部分切除の評価(Lumsdenら 1994年)

昨日と同様に、実験的に反回喉頭神経切断術を行って喉頭片麻痺モデルのスタンダードブレッド種馬を作成し、披裂軟骨部分切除の効果を検証した文献があるので紹介します。

データを羅列すると非常に分かりにくいと思いますが、運動時に虚脱して気道を塞ぐ披裂軟骨を切除してしまうことによって、吸気時の抵抗を減少させ、換気を改善させることができたと示されています。運動強度が最大心拍数の75%程度なら明らかな改善がありましたが、運動強度が最大となるときにはその効果が薄れてしまうようです。元通りの上気道機能には戻れませんが、ある程度の改善が見込まれ、競走パフォーマンスも上向くと予想されます。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”要約
6頭のスタンダードブレッド種馬を用いて、外科的に喉頭片麻痺モデルを作成し、安静時(ピリオドA)、最大心拍数の75%の時点(ピリオドB)および最大心拍数の時点(ピリオドC)にて披裂軟骨部分切除の効果を評価した。呼気時および吸気時の気流、呼気時および吸気時の気道内圧、呼気時および吸気時の抵抗を計測した。同時に換気曲線をコンピュータを用いて記録した。ここから呼気時および吸気時の換気量50%および25%となる時点の数値を得て、呼気時と吸気時の比を算出した。それぞれの測定は、反回喉頭神経切断術の前(ベースライン)、反回喉頭神経切断術の2週間後および左披裂軟骨部分切除と両側声帯切除を行った16週間後に行った。
反回喉頭神経切断術後、運動時のピリオドBおよびCでは、吸気時の抵抗および50%換気量時の呼気時と吸気時の比は有意に増加した。吸気時の流入量ピークと吸気時の50%および25%換気量では、ベースラインよりも有意な減少がみられた。
披裂軟骨部分切除と両側声帯切除の16週間後には、ピリオドBおよびCにおいて吸気時の抵抗はベースラインに戻った。ピリオドBにおいては、吸気時の流入量ピーク、吸気時の50%および25%換気量、呼気時の流入量ピーク/吸気時の流入量ピーク、50%換気時の呼気/吸気はベースラインに戻った。しかしピリオドCではこれらの指標はベースラインとは明らかな差があった。ただ、ピリオドCのときの換気曲線はベースラインのものに近づいた。
外科的に作成した喉頭片麻痺の馬において、披裂軟骨部分切除による上気道機能の改善が見られたが、換気曲線による定量的および定性的な評価から、換気が最大になる時点ではある程度の気道障害が残っていると示唆された。本研究の結果から、もちろんこの手技は上気道を完全に元通りに回復させるわけではないが、喉頭形成術がうまくいかなかった場合や披裂軟骨炎の馬において、披裂軟骨部分切除は実行可能な治療オプションとなる。”