育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

喉頭形成術と披裂軟骨部分切除の比較(Radcliffeら 2006年)

喉頭片麻痺(反回喉頭神経症)モデルを外科的に作成し、これに対して喉頭形成術(と声帯切除)を行った場合と、披裂軟骨部分切除を行った場合の、呼吸機能を調べるため、換気と動脈血液ガス分析を行った文献があります。

この文献から、最大運動強度において、手術による改善は見込めるものの、正常時までは機能回復が難しいことがわかりました。
気道内への誤嚥・吸入に関しては、運動時よりもむしろ平時の方が強く懸念されます。ここまで調べてきて、術創に関する記述は多くあるものの、気道内への評価は多くないように感じます。たしかに気道内分泌物を定量的に評価するのは難しいのですが。。。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”目的
 上気道の構造、動脈血液ガス、気管内への混入物について、左喉頭片麻痺(反回喉頭神経症)の発症を誘導して喉頭形成術および声帯切除を行った場合と披裂軟骨部分切除の変法を用いた場合を比較した。

研究デザイン
 コントロール、反回喉頭神経症喉頭形成術および声帯切除、披裂軟骨部分切除について、それぞれ繰り返し計測を行った。

動物
 馬6頭

方法
 最大心拍数の80%および100%の状態で2回試行した。1回目の試行では動脈血液ガス、気管及び咽頭圧および喉頭内視鏡動画を記録した。2回目の試行では、上気道圧および気流を測定した。気管内へのコンタミネーションを定量ため、運動後には気管支吸引を行った。

結果
 コントロールと比較して、反回喉頭神経症では吸気時の抵抗は有意に増加し、運動による低酸素血症も有意に悪化した。
最大心拍の80%の運動において、喉頭形成術ではほとんどがコントロールと同様の数値であった。最大心拍の100%の運動において、喉頭形成術では全ての数値に改善が見られたものの、毎分呼気量、動脈血pHおよび二酸化炭素分圧は回復しなかった。
最大心拍の80%の運動において、披裂軟骨部分切除では、二酸化炭素の数値を除いた全ての数値がコントロールと同等であった。最大心拍の100%の運動において、披裂軟骨部分切除により全ての数値が改善したが、毎分換気量および二酸化炭素は、統計学的に回復したとはいえなかった。喉頭形成術と披裂軟骨部分切除を比較するとわずかな違いしかなかった。気道内へのコンタミネーションはどちらも同等であった。

結論
 気道の機能や動脈血液ガスの数値は、最大心拍数の運動時において、喉頭形成術でも披裂軟骨部分切除でも正常には回復しなかった。最大強度以下の運動であれば換気機能に影響はないが、最大心拍数の運動時には臨床的な影響がある。どちらの手術手技も、正常な喉頭の防御機能を損なうものである。

臨床的関連性
 最大強度以下の運動であれば、喉頭形成術でも披裂軟骨部分切除でも、換気機能を正常に回復できる。最大強度の運動時には、喉頭形成術が披裂軟骨よりも優れている点はわずかとなる。”