生体を用いて下部掌側神経ブロック(いわゆるLow 4 Point Block)を行ったときの麻酔薬の拡散範囲を検証した文献。
はじめに
神経ブロックとは
神経伝達の通り道を一時的に遮断することで疼痛を感じなくさせます。ブロックした位置より肢端の感覚がなくなるため、跛行の原因となる疼痛部位を特定することが可能となります。
神経ブロックの投与部位と感覚消失部位のイメージ図
それぞれのブロックと対応する色の線よりも下肢部の感覚が一時的に消失します。
Low 4 point block
Low 4 Point Blockは、その名の通り4か所に麻酔薬を投与し神経ブロックを行う方法です。掌側神経は中手遠位で繋靭帯と屈腱部の間を走行、掌側中手神経は副管骨遠位端の直下から背側へと回り込むように走行しています。これらを狙って、副管骨末端と繋靭帯と屈腱部の間のそれぞれの皮下に局所麻酔薬を投与します。内外で同様に投与し、合計4点で球節以下を感覚消失させます。
文献で明らかになったこと
どこまで拡散するのか
平均拡散距離は近位へ4.0cm、遠近あわせて6.6cmであった。
繋靭帯近位部までは達しなかった。
滑液嚢内への混入はどのくらいの頻度で起きるか
8/18肢で球節内、7/18肢で指屈腱鞘内に造影剤が入っていた。
臨床的な応用
皮下の拡散距離は少ないが、他の構造(球節、指屈腱鞘)に混入する可能性を考慮する。
引用文献
Kathryn A Seabaugh, Kurt T Selberg, Alejandro Valdés-Martínez, Sangeeta Rao, Gary M Baxter
J Am Vet Med Assoc. 2011 Nov 15;239(10):1334-40. doi: 10.2460/javma.239.10.1334.
“要約
目的
下部掌側神経ブロックにおける麻酔薬投与後の組織拡散を調査すること。
デザイン
ランダム化臨床試験
動物
12頭の成馬
方法
9頭の馬に対して、メピバカインとイオヘキソールを50:50で混合し、1か所2-4mlで両前肢の内側と外側の掌側および掌側中手神経に投与した。両側中手領域のX線側方像を、投与後5,15,30,60,90および120分後に撮影した。掌側神経および掌側中手神経に投与したX線造影剤(麻酔薬も同様の挙動と推測)が、近位と遠位にどれだけの範囲で拡散したか計測し、合計して総合的な拡散を明らかにした。3頭は安楽死を行った後、近位繋靭帯領域への麻酔薬拡散の経路を明らかにするため、メチレンブルー溶液を同様の部位に投与した。
結果
近位へ平均4.0cm、合計では平均6.6cm拡散した。また掌側中手神経からは平均4.3cm、掌側神経からは平均7.1cm拡散した。18肢中17肢で、リンパ管ドレナージにより二次的なわずかな拡散がみられた。造影剤は中手指節関節内に8肢および指屈腱鞘内には7肢で拡散がみられた。解剖体を用いた実験では、メチレンブルーは繋靭帯近位部までは広がっていなかった。
結論と臨床的関連性
馬において、下部掌側神経ブロックでは投与部位から近位への麻酔薬拡散は最小限であった。意図しない滑液嚢内への投与が起きてしまうことがあるため、神経ブロック前に無菌的にしておくべきである。”