神経ブロックの特異性はどこまで保たれているか、薬剤が影響する範囲を特定するための研究が盛んに行われています。
はじめに
神経ブロックとは
神経伝達の通り道を一時的に遮断することで疼痛を感じなくさせます。ブロックした位置より肢端の感覚がなくなるため、跛行の原因となる疼痛部位を特定することが可能となります。
神経ブロックの投与部位と感覚消失部位のイメージ図
それぞれのブロックと対応する色の線よりも下肢部の感覚が一時的に消失します。
Low 4 point block
Low 4 Point Blockは、その名の通り4か所に麻酔薬を投与し神経ブロックを行う方法です。掌側神経は中手遠位で繋靭帯と屈腱部の間を走行、掌側中手神経は副管骨遠位端の直下から背側へと回り込むように走行しています。これらを狙って、副管骨末端と繋靭帯と屈腱部の間のそれぞれの皮下に局所麻酔薬を投与します。内外で同様に投与し、合計4点で球節以下を感覚消失させます。
文献で明らかになったこと
実験内容
Low 4 Point Block後に薬剤が拡散する範囲を明らかにするため、生体におけるX線造影剤投与、解剖体における染色液とX線造影剤投与を行った。
掌側神経周囲への拡散
掌側神経周囲への投与では、77.5%が神経血管束に沿って拡散し、時間の経過により範囲は広がった。
掌側中手神経周囲への拡散
掌側中手神経周囲への投与ではびまん性に拡散が起きていた。
どちらも中手の中間までの拡散で、近位まで及ぶことはなかった。
滑液嚢内への混入
30%で投与時に針が指屈腱鞘DFTSに貫通し、意図せず混入する可能性があった。
臨床的な応用
Low 4 Point Block後の局所麻酔薬の近位への拡散により、中手近位領域の痛みによる跛行を減ずる可能性は低い。Low 4 Point Blockを行う際に、3割程度が意図せず指屈腱鞘を貫通してしまっている可能性があることを考慮する。
引用文献
A Nagy, G Bodò, S J Dyson, F Compostella, A R S Barr
Equine Vet J. 2010 Sep;42(6):512-8. doi: 10.1111/j.2042-3306.2010.00076.x.
“要約
研究を実施した理由
中手遠位領域における掌側神経および掌側中手神経の神経麻酔(Low-4-Point-Block)を行う際に、投与した局所麻酔薬が拡散する様子についてエビデンスに基づいた情報は限られている。
目的
Low-4-Point-Blockを行った後に局所麻酔薬が拡散する可能性がある領域を、X線造影剤を用いたモデルによって示すこと。
方法
跛行のない10頭の成馬を用いて、内外側の管の遠位から3/4領域で掌側神経、同側の第二または第四中手骨のすぐ遠位で掌側中手神経の周囲にX線造影剤を投与した。投与後0,10,20分後にX線検査を行い、主観的・客観的に解析した。また、解剖体の20肢を用いてメチレンブルーおよびX線造影剤を用いて同様の手技を行った。X線検査後に解剖した。
結果
掌側神経では、31/40(77.5%)において神経血管束に沿って拡散していた。時間の経過により明らかに近位に拡散していたが、中心が中手中位まで移動することはなかった。X線検査から、2肢で造影剤が指屈腱鞘内に認められた。掌側中手神経では、ほとんどの肢で投与部位からびまん性に拡散していた。解剖体を用いた実験では、掌側神経周囲に投与後、神経血管束に沿った拡散が8/20(40%)、指屈腱鞘内に6/20(30%)で混入が確認された。掌側中手神経周囲に投与後、びまん性の拡散が9/20(45%)、管状の拡散が11/20(55%)で認められた。
結論と潜在的関連性
Low-4-Point-Block後の局所麻酔薬の近位への拡散は、中手近位領域の痛みによる跛行を減ずる可能性は低い。Low-4-Point-Blockを行う際に、意図せず指屈腱鞘を貫通してしまっている可能性がある。”