育成馬臨床医のメモ帳

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外側掌側神経ブロックの新たな方法に関する研究(Castro 2005年)

中手近位掌側部傷害の診断に用いられる神経ブロックの手技は複数あります。それぞれ影響のおよぶ範囲についての報告が多数あり、それをもとに診断麻酔の結果を解釈します。これまでに考案された方法はどれも傷害の領域を特定できますが、疾患に特異的な神経ブロックは存在しません。

2005年に新たに報告された外側掌側神経ブロックの方法についての文献があります。これは解剖体を用いた実験室レベルの報告ですが、投与量が少なく薬剤の拡散を抑えられ、他の組織への影響が少ない方法であると考えられます。

 

 はじめに

神経ブロックとは 

 神経伝達の通り道を一時的に遮断することで疼痛を感じなくさせます。ブロックした位置より肢端の感覚がなくなるため、跛行の原因となる疼痛部位を特定することが可能となります。

神経ブロックの投与部位と感覚消失部位のイメージ図

下肢部診断麻酔

下肢部の診断麻酔で用いる神経ブロックの位置

それぞれのブロックと対応する色の線よりも下肢部の感覚が一時的に消失します。

 

Lateral Palmer Nerve Block at Accessory Carpal Bone

high palmer block

Lateral Palmer Nerve Block at Accessory Carpal Bone

外側掌側神経は、副手根骨の部位で分岐します。その分枝は掌側中手神経と掌側神経です。これらはどちらもHigh 4 Point Blockの標的となる神経で、この方法はそれらが分岐するよりも近位でブロックすることを狙った手技です。

このブロックに反応するのは中手近位掌側部の傷害で、主に繋靭帯近位部や近位付着部の疼痛を原因とする跛行が挙げられます。

しかし、この投与部位では、手根管Carpal Sheathが近く、ここに誤って投与してしまうことが多いことが分かっていました。*1

 

文献で明らかになったこと 

新たな投与方法

解剖体の肢を用いて、副手根骨の内側から染色液を投与し、外側掌側神経の走行部位に投与できているかを確認した。

 

投与の成功率と他の組織への影響

29肢/30肢で神経周囲に染色液が投与できており、手根管への混入は認められなかった。

 

臨床的な応用

副手根骨の内側から外側掌側神経周囲に少量の局所麻酔薬を投与することでで、他の組織や滑液嚢内への影響が少なく神経ブロックができる可能性がある。

 

 

引用文献

A new approach for perineural injection of the lateral palmar nerve in the horse

Fernando A Castro, James S Schumacher, Frederik Pauwels, James T Blackford

Vet Surg. Nov-Dec 2005;34(6):539-42. doi: 10.1111/j.1532-950X.2005.00084.x.

 

“要約

目的

 外側掌側神経周囲に投与する新たな手技の正確さを評価し、手根管に意図せず混入してしまう頻度を明らかにすること。

 

研究デザイン

 前向き実験研究

 

方法

 3人の臨床医により、それぞれ10肢の副手根骨内側に1%ニューメチレンブルー溶液0.5mlが投与された。それぞれの投与直後、解剖して外側掌側神経を露出し、染色液の拡散を調べ、手根管に染色液が入っているか調べた。

 

結果

 ニューメチレンブルーは神経周囲にある(29肢)か、それから2mm以内の距離(1肢)に認められた。手根管に染色液は認められなかった。

 

結論

 この手技を用いれば、外側掌側神経周囲への投与が確実にでき、投与中に手根管を刺してしまう確率は低い。

 

臨床的関連性

 この手技は、外側掌側神経が分岐する前の部位周囲に投与できる正確で簡単な方法である。手根管内の他の組織を意図せず麻痺させることなく中手近位掌側部を起源とする疼痛の診断が可能となる。”