育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

スタンダードブレッドの競走と心臓不整脈(Buhlら 2013年)

競走に関連した不整脈の多くは心房細動で、プアパフォーマンスの原因となっています。自然に消失する場合には問題ありませんが、持続する場合は薬剤投与が必要になります。また、逆流やそれに伴う心臓の形態的変化が関連すると予後は複雑になってきます。

 

Cardiac Arrhythmias in Standardbreds During and After Racing—Possible Association Between Heart Size, Valvular Regurgitations, and Arrhythmias

RikkeBuhl, PhDaEllen Ekkelund Petersen, Maria Lindholm, Lars Bak, Katarina Nostell

J Equine Vet Science Volume 33, Issue 8, August 2013, Pages 590-596

 

“要約

競走中およびその回復期における心臓不整脈についての記述は限られていて、また左心室の大きさおよび弁逆流症と不整脈の関係性についても同様である。

 

したがって本研究の目的は、①トロッターの競走後に上室性(SVPCs)または心室性(VPCs)の期外収縮が発生するか調べること、②心筋の肥大および弁逆流症と競走中または競走後の不整脈と相関があるか評価すること、③心臓不整脈と心筋バイオマーカーである心臓トロポニンⅠとの相関を推定することである。

 

臨床的に正常なトロッター26頭について、心エコーおよび心電図検査を行った。左心室筋量は体重に対する相対値として算出し、弁逆流症を記録した。心電図は安静時、競走中およびその後の回復期で記録した。血液サンプルは安静時、競走直後(15-60分)、競走12-14時間後のタイムポイントでそれぞれ1回採取した。

 

競走中、50%の馬で1回以上のSVPCsが見られたのに対し、1回以上のVPCsは3.9%の馬のみであった。回復期では、SVPCsは46.2%、VPCsは19.2%で認められた。不整脈の発生と、心z能の大きさおよび弁逆流症の存在との間に有意な関連はなかった。全ての馬で血清中の心臓トロポニンⅠ濃度は0.022µg未満であった。

 

まとめると、競走中および回復期には多くの馬でSVPCsが認められた。また、VPCsは競走後に中程度の数認められた。不整脈の所見は多かったものの、心臓の大きさや心臓トロポニンⅠ濃度の上昇とは関連していなかったことから、生理的で正常な原因によるものと思われる。”