中手近位掌側部障害の診断に用いられる神経ブロックの手技は複数あります。それぞれ影響のおよぶ範囲についての報告が多数あり、それをもとに診断麻酔の結果を解釈します。これまでに考案された方法はどれも傷害の領域を特定できますが、疾患に特異的な神経ブロックは存在しません。
神経ブロックによって疼痛の原因が判明したら、次に行うのは画像診断です。しかし、神経ブロックを行った直後に超音波検査を行うのは注意が必要です。もし軟部組織の腫れやガス像がある場合には、組織のエコー源性が正しく評価できない場合があるため、投与24時間以降に再検査が推奨されます。
はじめに
神経ブロックとは
神経伝達の通り道を一時的に遮断することで疼痛を感じなくさせます。ブロックした位置より肢端の感覚がなくなるため、跛行の原因となる疼痛部位を特定することが可能となります。
神経ブロックの投与部位と感覚消失部位のイメージ図
それぞれのブロックと対応する色の線よりも下肢部の感覚が一時的に消失します。
High Palmer Block
外側掌側神経は、副手根骨の部位で分岐します。その分枝は掌側中手神経と掌側神経です。これらはどちらもHigh 4 Point Blockの標的となる神経で、この方法はそれらが分岐するよりも近位でブロックすることを狙った手技です。
このブロックに反応するのは中手近位掌側部の傷害で、主に繋靭帯近位部や近位付着部の疼痛を原因とする跛行が挙げられます。
文献で明らかになったこと
神経ブロック後に超音波検査
High Palmer BlockとLow Palmer Blockを行った直後、1時間後および24時間後に、浅屈腱、深屈腱、深屈腱支持靱帯、繫靱帯、繫靱帯脚部を超音波検査で評価した。
どのような影響があるか
腱の実質や断面積の評価に影響なし。直後から1時間後は投与した薬剤とガス像により、繫靱帯近位付着部および深屈腱支持靱帯近位付着部の評価に影響ある可能性。24時間後にはこの所見は消失した。
臨床的な応用
診断麻酔後すぐに超音波検査を行うと、ガス像などが評価に影響を与える可能性がある。その場合には24時間後に再検査が推奨される。
引用文献
Vet Radiol Ultrasound. Jan-Feb 2003;44(1):59-64. doi: 10.1111/j.1740-8261.2003.tb01451.x.
“要約
本研究の目的は、局所麻酔薬を浸潤させたことによる中手掌側領域の超音波画像の変化を記述すること、この変化が投与直後と24時間後で異なるのか明らかにすることであった。
6頭の馬の片側の前肢について、10MHzの直リニアプローブおよび7.5MHzの曲リニアプローブを用いて中手掌側領域の超音波画像検査を行った。副手根骨の遠位から、5cm間隔で横断および縦断の画像を記録した。2%塩酸メピバカインを用いて、High-PalmerおよびLow-Palmerブロックを行った。投与前と同様の超音波画像検査を、投与直後、1時間後、24時間後に行った。部位および時間ごとに、浅屈腱、深屈腱、深屈腱支持靱帯、繫靱帯、繫靱帯脚部の横断面積および平均ピクセル値をもとめた。主観的な超音波画像の変化も記録した。
ベースラインと比較して、どの部位でもどの時間においても組織の横断面積とピクセル値に有意な違いはなかった。腱や靱帯に主観的な変化は記録されなかった。投与部位には周囲軟部組織の軽度な低エコー性の腫脹およびガス像が認められた。投与後1時間以内にはガス像により繫靱帯の起始部および深屈腱支持靱帯の近位部の評価に干渉する可能性があったが、投与24時間後には見られなかった。
本研究の所見に基づけば、神経麻酔直後にガスによる超音波画像の評価に干渉が生じた場合は、24時間後の再検査が推奨される。”