手根管の腱鞘は、深屈腱および浅屈腱を腕節の掌内側で包む構造です。この部位に起因する病態は、屈腱またはその支持靭帯の損傷、橈骨尾側の骨軟骨腫、副手根骨の骨折などがあります。
手根管に沿って内側および外側の掌側神経が走行していること、また手根管への局所麻酔薬の拡散は、外側掌側神経ブロックを試みた際に発生しやすいことが知られ、診断麻酔の結果を解釈する際の懸念となっています。
文献でわかったこと
・手根管内麻酔では67%で30分後から蹄球の感覚が消失し、50%は180分間も効果が持続した。
・解剖体の調査では、手根領域では内側掌側神経が、中手領域では内外の掌側神経が深屈腱腱間膜内を走行していた。
・手根管内麻酔の評価は投与後15分以内にすべきである。
引用文献
Ludovic Miagkoff, Alvaro G Bonilla
Equine Vet J. 2021 Jan;53(1):167-176. doi: 10.1111/evj.13269. Epub 2020 May 26.
“要約
背景
馬において手根管の腱鞘内麻酔が肢遠位の感覚に与える影響はわかっていない。
目的
手根管腱鞘内麻酔が肢遠位の皮膚感覚に与える影響を評価すること、掌側神経の感覚消失がおきる潜在的な部位を明らかにすること。
研究デザイン
生体における実験的、記述的、解剖学的研究
方法
8頭の馬に対して、塩酸メピバカイン2%(0.6mg/kg)を片側の手根管腱鞘内に投与した。下肢部の機械的な受容反応は動力計を用いて測定し、投与後0,15,30,60,120,180分後で対側肢と比較した。加えて、解剖体の肢から10対を用いて手根管腱鞘にラテックスを投与し、片側は長軸断面、もう一方は3cmごとの横断面を作成し、麻酔薬が拡散する可能性のある周囲の神経を同定した。
結果
8頭中6頭(75%)は内外の蹄球の感覚が完全に消失した。感覚消失が起こらなかった2頭は麻酔薬の投与がスムーズにいかなかった。蹄球の感覚消失は、67%(8/12)が投与30-60分後にみられ、50%(6/12)は180分後まで効果が持続した。解剖体を用いた実験から、手根管と内側掌側神経は非常に近接していることがわかった。内側掌側神経は手根領域では深屈腱の腱間膜内を走行し、中手領域では内外の掌側神経が同様に走行していた。
主な限界
皮膚の機械的な受容感覚は必ずしも深部の疼痛と相関しない。しかし臨床的には肢遠位の麻酔を評価するために用いるのは皮膚感覚消失である。
結論
手根管腱鞘内への麻酔薬投与による肢遠位の皮膚感覚消失は、2つの部位で神経への拡散を通して起こっている可能性がある。手根管腱鞘内麻酔は、投与後15分以内に評価すべきで、投与後の腕節遠位のブロックは3時間後も続く。”