指屈腱鞘内に投与したメピバカインの周囲組織移行は、診断麻酔の結果を判断する上で重要な懸念となります。
実際に生体を用いて他の組織にどれだけ移行したか調査した文献があります。
はじめに
指(趾)屈腱鞘 digital sheath とは
指屈腱鞘は球節掌側に位置し、浅屈腱、深屈腱、輪状靭帯と関連する滑液嚢です。
また、腱鞘内にも屈腱袖(Manica Flexoria)という構造があり、非常に複雑です。
文献で明らかになったこと
指屈腱鞘に投与したメピバカインの周囲滑液嚢への移行
投与した指屈腱鞘とそれに接する球節、近位指節間関節、遠位指節間関節およびナビキュラー滑液嚢と対側肢の球節から滑液を採取した。ELISAによりメピバカイン濃度を測定した。
結果
投与した腱鞘内には十分な濃度のメピバカインが存在した。
隣接する滑液嚢内にも移行するが、有効とされる濃度(100mg/Lまたは300mg/L)より低かった。
血中にも移行するし、対側の球節からもごく低濃度で検出された。
引用文献
M Jordana, A Martens, L Duchateau, M Haspeslagh, K Vanderperren, M Oosterlinck, F Pille
Equine Vet J. 2016 May;48(3):326-30. doi: 10.1111/evj.12447. Epub 2015 May 23.
“要約
研究を実施した理由
馬の指屈腱鞘の診断麻酔の特異度には議論が残る。
目的
指屈腱鞘に接する滑液嚢組織への拡散度合いを評価すること。
研究デザイン
クロスオーバー試験
方法
全身麻酔下で、8頭の片側前肢および後肢の指屈腱鞘に同様の手技でメピバカインを投与した。投与した指屈腱鞘とそれに接する球節、近位指節間関節、遠位指節間関節およびナビキュラー滑液嚢と対側肢の球節から、ひとつの肢では投与15分後、もうひとつの肢では投与60分後に滑液を採取した。静脈血は投与後0分、15分、60分で採取し、メピバカインの全身血移行を評価した。2週間のウォッシュアウト期間を設け、採取するタイミングを交換して行った。検体のメピバカイン濃度は、市販のELISAキットを用いて測定した。
結果
指屈腱鞘滑液内のメピバカイン濃度は、15分後(5077mg/L)、60分後(3503mg/L)ともに、滑液嚢内麻酔を行うのに十分とされる濃度(100mg/Lまたは300mg/L)を超えていた。メピバカインは、接する滑液検体および対側肢の球節からも検出されたが、濃度は低く、最高でも3.2mg/Lしかなかった。ナビキュラー滑液嚢を除き、接する滑液嚢内のメピバカイン濃度は15分後よりも60分後の方が有意に高かった(P<0.03)。投与60分後には、対側よりも同側の球節で有意に高いメピバカイン濃度となった(P<0.001)。血中濃度は0分後と比較して15分後および60分後で有意に高かった(P<0.001)。
結論
指屈腱鞘内に投与したメピバカインは接する滑液嚢内に拡散するが、臨床的に関連のある濃度には達することがなかった。”