球節掌側のぷにぷにとした柔らかい腫脹は、腱鞘の腫れが主体です。これにはさまざまな原因があり、目に見える症状は共通していても、原因によってとるべき治療法が異なる場合があります。
超音波検査は、この腱鞘内を観察するのに優れた検査方法です。腱鞘内を走行する腱実質の損傷、滑膜の肥厚、フィブリンの析出などを観察することが可能です。しかしそれでも原因がはっきりしない場合には、診断的に腱鞘鏡手術を行い、直接病変を評価し処置することもあります。
はじめに
指(趾)屈腱鞘 digital sheath とは
指屈腱鞘は球節掌側に位置し、浅屈腱、深屈腱、輪状靭帯と関連する滑液嚢です。
また、腱鞘内にも屈腱袖(Manica Flexoria)という構造があり、非常に複雑です。
腱鞘炎の症状
腱鞘内の腱、腱鞘、滑膜などの損傷から炎症が起き、腱鞘液が増加します。
腱鞘液の増量のみ認められる症例が多いですが、なかには軽度から中程度の跛行がみられることがあります。腱実質の損傷による疼痛、または輪状靭帯による締めつけ(拘縮)を原因とする疼痛などが跛行の原因と考えられます。
治療法
保存的治療と外科的治療が採用されます。ある程度まとまった長期休養期間とリハビリプロトコルを経て運動復帰します。いったん症状が改善することもありますが、運動強度を上げると跛行や症状が再発することがあり、競技復帰の予後は五分(fair)です。
文献で明らかになったこと
慢性指屈腱鞘炎における屈腱損傷の所見率
慢性指屈腱鞘炎の症例に対して診断的腱鞘鏡を行ったところ、101頭/130頭(104肢/135肢) で屈腱長軸方向の損傷が認められた。
このうち76%は術前に超音波検査にて診断できた。
屈腱損傷の所見
深屈腱の損傷が全体の79%を占め、このうち外側境界部の損傷が87%であった。
治療法と成績
腱鞘鏡により屈腱損傷と診断した症例に対して、損傷部をデブリードした。37頭(38%)が術前と同等以上のレベルに復帰することができた。高周波プローブによるコブレーションは、パフォーマンスの低下と外貌の悪さと関連していた。
臨床的な応用
慢性腱鞘炎のうち屈腱長軸方向の損傷を認めた馬を外科的に治療した場合、将来的に跛行なく過ごせる予後は五分(fair)である。術後も腱鞘の腫脹が顕著で持続する場合には、もとのレベルの運動に復帰できる予後は悪い。
引用文献
L Arensburg, H Wilderjans, O Simon, J Dewulf, B Boussauw
Equine Vet J. 2011 Nov;43(6):660-8. doi: 10.1111/j.2042-3306.2010.00341.x. Epub 2011 Jun 8.
“要約
研究を実施した理由
屈腱長軸方向の損傷は、慢性の指屈腱鞘炎の重要な原因である。この辺縁損傷の起源はまだ完全に理解されていない。内科および外科治療後の長期的な成績は五分である。
目的
指屈腱鞘の診断的腱鞘鏡を受けた多頭数のなかで、屈腱の長軸方向の損傷の所見率を明らかにすること。外科的治療の成績および成績に影響する因子について評価すること。
方法
1999-2009年の期間で、腱鞘鏡手術を受けた慢性指屈腱鞘炎の130頭の医療記録を調査した。135の指屈腱鞘を調査した。101頭の104の指屈腱鞘で長軸方向の損傷が診断され、長期的な追跡調査が得られた。
結果
非感染性の指屈腱鞘炎では、78%で長軸方向の損傷が認められた。このうち76%が術前に超音波検査で診断できた。ショージャンプの馬では、後肢(12%)よりも前肢(88%)に多く、右前(76%)が左前(24%)より多かった。深屈腱の損傷が79%で、外側の境界部の損傷が87%であった。37頭(38%)が術前と同等か高いレベルに復帰した。高周波プローブによるコブレーションは、パフォーマンスの低下と外貌の悪さと関連していた。術後も腱鞘の腫脹が顕著で持続する場合には、もとのレベルの運動に復帰できる予後は悪い。
結論と潜在的関連性
屈腱の長軸方向の損傷で治療した馬が、将来的に跛行しない予後は五分である。高周波プローブを用いた組織除去は、最終的な結果に負の効果があった。”