育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

掌側/底側輪状靭帯損傷の回顧的調査71症例(Owenら2008)

球節部の掌側/底側輪状靭帯の損傷は、高齢の一般的な乗用馬に多くみられ、その多くは両側で靭帯の肥厚が見られます。

外貌からは球節の後面が出っ張った見た目となることが特徴で、このような見た目の球節では、超音波検査により皮下の線維化による肥厚と靭帯の損傷が検出できるかもしれません。

両側の靭帯損傷が多いにもかかわらず、跛行が見られるのは片側である場合が多いです。調査結果によると、もとの運動に復帰できた馬は半数以下しかおらず、予後はあまりよくありませんが、靭帯のみの損傷の場合に最も運動復帰の予後がよいです。これはこの病態が慢性的になってから発見・診断されやすいことと関連しているかもしれません。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 掌側/底側の輪状靭帯による指屈腱鞘とその内容の狭窄はよく知られている。しかし、靭帯そのものの損傷はよく知られていない。

 

目的

 輪状靭帯損傷の臨床的特徴を明らかにすること。皮下の線維化や指屈腱鞘内の損傷の併発の有病率を明らかにすること。治療に対する反応を評価すること。

 

方法

 超音波検査にて輪状靭帯の損傷と肥厚(≧2mm)が確認された臨床的特徴に基づいた組み入れ基準で選択した。3つの病院から医療記録を回顧的に調査した。血統、年齢、飼養目的、臨床検査や超音波検査の結果と治療への反応を記録した。保存的な治療または外科的な輪状靭帯切開術および腱鞘鏡による指屈腱鞘の評価を行った。治療への反応は、電話による聞き取りで行った。

 

結果

 71頭を調査に組み入れた。中~高齢で、一般的な乗用馬が多かった。輪状靭帯炎は前肢より後肢に多くみられた。治療方法、輪状靭帯の肥厚および皮下の線維化は予後に有意な影響はみられなかった。しかし、そもそも運動復帰できた馬が50%未満であった。所見が輪状靭帯炎のみの馬が最も結果がよい傾向があった。両側の輪状靭帯肥厚または前肢と後肢に損傷がみられる場合には予後に負の影響があった。また、指屈腱鞘内に病変がある場合や皮下の線維化がある場合も同様であった。

 

結論と臨床的関連性

 輪状靭帯損傷は、靭帯の肥厚と皮下の線維化に関連した球節の掌側/底側面の輪郭が出っ張るという特徴がある。高齢の馬、ポニーおよびコブ(そりなどを引く小型馬)では両側の靭帯肥厚が多くみられた。しかし、両側の靭帯が肥大していても片側の跛行のみ示す馬が多い。本研究で採用されていた治療法による結果への影響が有意ではなかった。